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【まぜこぜエクスプレス】Vol.46 自閉症の不思議な世界(1) 個性豊かなアーティストたち
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アートパフォーマンスで制作した粘土の動物を説明する佐々木卓也さん(右)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる(左、山下元気さん撮影) 4月2日は、国連が定める「世界自閉症啓発デー」。Get in touchは、この日を自閉症の人の持つ温かさと重ねあわせ「Warm Blue Day」と名づけ、2013年から自閉症について知ってもらうためのイベントを行ってきた。今回から4月2日に向けて4回にわたり、自閉症の不思議な魅力を取り上げていく。今回は、唯一無二の才能をもつアーティストたちを紹介する。
自閉症という言葉はずいぶん知られてきたが、今だに、「性格の暗い人」や「ひきこもり」と勘違いしている人もいるようだ。自閉症は先天的な脳の特性で多数派と異なる感覚や認知を持つ。生活やコミュニケーションにハンディが生まれやすい一方、ユニークな個性を育む可能性も高い。中には、好きなものに対する徹底的なこだわり、独特の色彩感覚や描写力などから、魅力的な作風を生み出すアーティストとして活躍する人もいる。並外れた集中力でぐるぐる渦巻きを描き続けたり、記憶した数字を独自の配列で並べたり、まるでカメラで撮影したように風景を再現したり、特異な才能を持つ自閉症の作家たちが活躍している。
卓ちゃんこと佐々木卓也さんも、そのうちの一人だ。多くの言葉を持たない彼だが、幼い頃から絵を描き、粘土細工を作り、創作活動を続けてきた。鮮やかでおおらかな線、どこかほのぼのとした作風にファンも多い。
私が卓ちゃんとアートパフォーマンスを始めたきっかけは2011年の東日本大震災。卓ちゃんのお母さん、睦子さんの「被災した人を支援したい」という思いから、「卓也にできることは絵を描くこと。ちづるさんとだったら、大勢の前でも描けると思う」と提案があった。
白いキャンバスに私がまず鉛筆で線を描く。思いつく数字、ひらがな、英字などを混ぜて。私の様子をじっとみている卓ちゃん。線を入れ終わると、キャンバスを両手でつかみ、にらむように凝視。アーティストの顔になる。「大丈夫?」と聞くと、「ダイジョウブ!」と答える。その言葉が自閉症によくある特徴の一つの“オウム返し”なのか、本当に大丈夫なのかわからない。睦子さんはハラハラ。最初の頃は、両手を胸の上で組み、祈るように見守っていた。輪郭は描かずどんどん色を重ねるので、お客さんも何が何だかわからない。だが、卓ちゃんの自信に満ちた筆運びに吸い寄せられるように見続けるのだ。写真をパシャパシャ撮っても、騒がしくても、彼の集中力が途切れることはない。約1時間後、カラフルな動物が折り重なるように寄り添った作品が完成。会場は感嘆の声と拍手に包まれる。
これまで何度も卓ちゃんとパフォーマンスを続けてきたが、一度だけ、白、黒、グレーが中心のダークな配色の絵になったことがある。彼の心境に何か変化があったと周囲が考えるきっかけになり、彼にとって描くことは、伝えたい、つながりたいことでもあるんだと再認識した。睦子さんも、「人とつながることでトラブルもあるけど、卓也はどんどん成長してきている」とうれしそうだ。
以前、卓ちゃんと、仙台市の福祉施設「こぶし」でアート活動をする塗敦子さん、ボーダレスアートをめざす岩手県花巻市のるんびにい美術館のアトリエで制作を行う小林覚さんという3人のアーティストが展覧会場でそろったことがあった。3人とも言葉を交わさない。だが同時に笑い出し、また静かになり、また同時に片手を上げ空中に何かを描くようなしぐさを始めた。周囲は驚いた。「テレパシーで話してるんじゃない?」「彼らは進化した人かも?」と。「君たちはナニモノなんだ?」と不思議がりつつ、平和な時間に浸ったことがある。
数多く自閉症の作家の作品をプロデュースしてきた美術家の中津川浩章さんは以前、「言葉やコミュニケーションにハンディがあるからこそ、彼らがその表現に託すものは深くて大きい」と言っていたが、とても納得できる話だ。
ここ数年、障がい者のアーティストが注目されている。いいものはいいのだから自然な流れだと思う。だが「頑張ってるから」「ピュアだから」という思い込みも蔓延(まんえん)している。必要なのは哀れみ、ほどこしではなく、正当に評価されるチャンスだ。自然に、フラットに。
なので、今回「Warm Blue Day」に合わせて障がいの有無にとらわれずアートを楽しめる展覧会を企画した。多様なアーティストが、ブルーを描いた作品を展示する。Get in touchが歩き始めたときからの目標、まぜこぜの展覧会だ。作品をまっすぐ楽しんでほしい。(女優、一般社団法人 「Get in touch」代表 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS)
■Get in touch”Warm Blue” MAZEKOZE Art 4月2~24日午前11時~午後7時、伊藤忠青山アートスクエア(港区北青山2の3の1シーアイプラザB1F)、入場無料。