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【まぜこぜエクスプレス】Vol.41 赤鼻で心つかみ、子供たちに居場所
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カラフルでにぎやかな院内学級「さいかち学級」で赤鼻をノーズオンする担任で、ホスピタルクラウンの副島賢和先生(左)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる=2015年1月15日、東京都品川区(小野寺宏友さん撮影) ≪ホスピタルクラウンで院内学級担任、副島賢和さん≫
東京・品川の昭和大学病院。見晴らしのいい最上階に、入院中の子供たちが学ぶ院内学級「さいかち学級」がある。カラフルな玩具や作品が並ぶ、教室とは思えないにぎやかな空間だ。担任を務め、病院などで心のケアをする道化師「ホスピタルクラウン」としても活躍する副島賢和先生に話を聞いた。
骨髄バンクの活動でたくさんの患者さんとつながってきた。病院にお見舞いに行くこともある。以前、入院中の患者さんから「免疫力がアップするから、笑わせてよー。笑いにうえてるの」と言われたことがある。入院中の患者さんの多くは不安なうえに退屈だ。そんな時、実在のホスピタルクラウンを描いた映画『パッチ・アダムス』を見て感動した。調べてみると、日本にもホスピタルクラウンはいた! 「あかはなそえじさん」こと副島さんも、その一人だ。
小学校の時から教員になるのが夢だったという副島さん。念願かなって教員になったが、1994年に病気を患い入退院を繰り返す。入院中の体験、そこで出会った子供との交流も転機となり、大学院で児童心理学を学び始める。そこで学校不適応(不登校)のキッカケの約13%が病気であることを知り、「自分の経験や勉強したことが生かせる」と考え、院内学級への異動を希望したのだという。
人生の転機はもうひとつあった。副島さんも『パッチ・アダムス』を見て感動し、2004年に主人公本人の講演会を聞きに行き、会場でクラウンの赤鼻を買った。「あかはなそえじ」の誕生だ。けれどもすぐにクラウンとして活躍できたわけではない。初めて赤鼻をつけた日、「キモい」と子供たちの評判は散々だったという。ましてや院内学級の子供たちは手ごわい。「短時間で子供の心をつかめるようになりたい」と考えた副島さんは、「さいかち学級」に異動した06年、本格的にクラウンの修行に通う。
副島さんと初めて会ったときから、旧知の仲のような感覚になった。「ニコッ」でも、「ニッコリ」でもなく、「ニコー」と笑う。すると周囲も「ニコー」の空気になる。ラブ&ピースにあふれた人だとすぐ分かる。そしてこちらもオープンマインドになる。大泉洋さん演じたドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ系)と副島さんが重なると思っていたら、「番組がつくられる前にスタッフの人が話を聞きにきたんですよ」と、照れながら教えてくれた。
小児科病棟へのお見舞い活動はつらい。子供たちの寂しさや、涙や、ガマンを痛いほど感じるからだ。隠そうとしていても伝わる。「甘えられる子はいいんだけど、一生懸命に『大丈夫です』という子には、どうにかそれを崩してあげたい」と副島さん。
実は、院内学級に通う期間は平均5日と短い。「5日くらい勉強しなくてもいいじゃないか」と思いがちだが、副島さんは「子供たちには患者でない自分に戻れる場所が必要」と話す。長期入院の子供はなおさらだ。院内先生であり、ホスピタルクラウンの副島さんは、子供たちにとって存在そのものが居場所になっているのだと思う。寄り添おうとしてくれる人がいてこその居場所だ。
そして、居場所が必要なのは、何も院内学級に来る子供たちだけではない。「通常の学校に通う子も同じように傷つき苦しんでいる」と副島さんは思う。だから「子供たちの声を聞いてほしい」と、講演会やワークショップにも奔走する。「だけど難しい。教員自身が苦しんでいることを隠して、頑張っている。失敗を見せられる先生が少ない」と嘆く。
大人だって間違うし、失敗する。あたりまえのことだ。「それにどう対応するのか、子供たちは知りたがっている。『間違い=ダメ』というのではなく、大人が失敗に誠意をもって対応するモデルを見せなくちゃ」。けれども、そんな当たり前のことも難しい時代なのだろう。昔と違い、今は先生たちが弱音を吐いたり、過去の失敗談を笑って話したりできる場所や時間が少ない。気軽なたまり場のような「先生たちのサロンが必要」と副島先生は考えている。
そういえば「さいかち学級」には、昭和のサロン「駄菓子屋」の匂いがある。学校の帰りに駄菓子屋によるのがとても楽しかった。世話好きのおばあちゃんの話を聞いたり、学校と違う価値観を伝えてくれる変なおじちゃんがいたり。時にはオマケしてくれたり、くじ引きでズルして怒られたり…。
以前プレゼントしてもらった赤鼻。付けると、おどけたくなる。笑わせたくなる。ポジティブになる。「まるで魔法ですね。スイッチ入りますね!」「でしょー。ノーズオンといいます」。
なるほど! しかめっ面の先生たちにもノーズオンしたい。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/撮影:フォトグラファー 小野寺宏友/SANKEI EXPRESS)