ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
トレンド
【まぜこぜエクスプレス】Vol.43 「生きてるって幸せ」 骨髄バンクの立役者 大谷貴子さん
更新
チャキチャキの関西弁トークが炸裂する大谷貴子さんと一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる。臍帯血バンク(産婦から提供される臍帯血を白血病などの治療に斡旋する活動)の啓発も行っている=2015年1月15日(小野寺宏友さん撮影、提供写真) タカちゃんこと大谷貴子さんは1986年、25歳の時に慢性骨髄性白血病を発病。88年1月に骨髄移植を受けるまでの2年間、「移植が必要なのにドナーがいない」「ドナーがいる人は助かるのに、いない人は助からない」という厳しい現実に直面し、闘病を続けながら日本骨髄バンクの立ち上げに貢献した立役者だ。今も日々忙しく啓発活動に駆け回り、その活動は着実に実を結びつつある。
タカちゃんから「これまでの苦悩と頑張りが実を結んだ」というニュースが飛び込んできた。メールでのやりとりだったが、ハグをしながら飛び跳ねたくなるような感動だ。12年前、17歳で卵子凍結をした白血病の少女が骨髄移植をして元気になり、成長して結婚。そして凍結卵子で妊娠、出産したというのだ。
骨髄移植を受ければ、命がつながるチャンスを得ることができる。が、あらゆる後遺症も想定しなければならない。その一つに、生殖機能の不全がある。抗がん剤の副作用で卵子・精子がダメージを受け、男女とも不妊になる可能性が高いのだ。けれどもそのことは以前まで、ほとんど問題視されてこなかった。
タカちゃんは「生き延びるだけでなくて、そのあとの人生が大事。キュア(治療)だけでなく、ケアも必要」と言う。自ら立ち上げた患者の会「フェニックスクラブ」で、患者たちが日常生活で医者や家族にも言いづらい悩みを抱えていることを実感したという。
たとえば、「体毛が抜けるのは知ってたけど、下の毛は抜けないって説明されてた。全部抜けたから、私だけおかしいのかなと思って、患者会で話したら、みんな、抜けてた!」。主治医に報告したところ、今までその事実を知らなかったというから驚きだ。医者に相談しづらい悩みは他にもある。中でも、不妊の悩みは深刻だ。
彼女自身の苦悩も壮絶だった。パートナーと何とかして子供を持ちたいと切望しながら、恋愛、結婚を諦めかけたこともある。骨髄移植の前に不妊のリスクが分かっていれば…。「なぜ事前に説明してくれなかったのかと医者に聞いたら、『明かしたら投与を拒否されて命にかかわるかもしれない』と言われた。だけど、それも患者が選ぶこと。『説明するべきやろー』と私は思った」
この苦しみを、他の患者さんたちには味わわせたくないという一心で、2000年、未受精卵子凍結プロジェクトをスタート。治療で不妊になる可能性のある女性患者を対象に、最先端の生殖医療に期待し、将来に備え未受精卵子の冷凍保存を勧める活動を丁寧に広げてきた。「骨髄バンクを創設することで一つの夢は実現した。だけど、自分のカラダに起こった変化から、次々にいろんな課題が見えてきて、まだまだやらなきゃいけないことがあるなーって」
タカちゃんとの出会いは22年前。私たちはそれぞれ骨髄バンクの啓蒙活動をしていたが、あるシンポジウムで出会ってから、まるで姉妹のように活動をしてきた。普通に説明会を開いても一般の人は興味を示してはくれない。ならばと、掛け合い漫才のようにトークし、「泣いて笑ってボランティア珍道中」というタイトルで全国を行脚した。それでも当初は、出会う患者さんが次々亡くなり、弔電を打ち、白い花を送り、お葬式に出る日々。タカちゃんは「喪服をクリーニングに出す暇がない」と嘆いていた。
患者さんのSOSには、とにかく駆けつける。できる限りのことをガツガツやる。在日韓国人の患者さんのため、韓国と日本の骨髄バンクの橋渡しをする目的で一緒に韓国に渡り、国営テレビのニュースで呼びかけたこともあった。彼女のあまりの熱意と意欲に「生き急いでいるみたい。ペースを落としてもいいのでは」と思ったが、「私は奇跡的に生き延びたけど、患者はみんな生きたいねん。私だって再発するかもしれんへんし、二次がんになるかもしれん。後悔したないねん」と、チャキチャキの関西弁で歯を食いしばるように言った。途中、子宮頸がんと大腸がんになったが、「取ればいい。ラッキーやったわ」と笑った。
そんな彼女も、移植から27年。産声を上げた日と、移植した日。1年に2回誕生日を祝う。「生きてるって幸せ」の合言葉で乾杯をして。
日本に骨髄バンクをつくるよう、闘病中の妹の背中を押したお姉さんの言葉、「貴子には間に合わへんかもしれんけど、他の患者さんのためになるんやったら、あんたが生きてた価値もあるやん」。これからも、他の患者さんのために東奔西走だ。大谷貴子は、しなびるまで命をとことん使い切る。(一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/SANKEI EXPRESS)