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【まぜこぜエクスプレス】Vol.47 自閉症の不思議な世界(2) 十人十色のユニークな人たち

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【まぜこぜエクスプレス】Vol.47 自閉症の不思議な世界(2) 十人十色のユニークな人たち

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合言葉は「タンクローリー!」。(左から)中村洪太さん、文子さん、小春さん、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる、片岡聡さん、菊地啓子さん。菊地さんのドレスはこの日のためのお手製(越智貴雄さん撮影)  「自閉症スペクトラム(連続体)」といわれるように、自閉症は虹の帯のようにカラフルだ。言葉の遅れなど知的ハンディキャップを伴う人から、並外れたIQ(知能指数)をもつ人まで幅広い。今回は個性的な自閉症の人たちに集まってもらい、語り合った。

 キャラクターが違う

 自閉症の支援団体、東京都自閉症協会で副理事長を務める中村文子さんの長女、小春さんと、長男、洪太さんはともに幼児期に診断された筋金入りの自閉症だ。周囲から「行動が似ている」と言われるふたりだが、文子さんは「キャラクターがまったく違う」と言う。「洪太は過集中といわれる特性があり、好きなことに熱中すると食事も忘れる。小春はどんなに遅く起きても朝昼晩3回食べないと気が済まない」。当然、支援の方法も違う。「洪太は歯医者ではネットで巻くと安心して治療が受けられる。小春は拘束を嫌がるので説明し我慢しようねと伝える方がいい」。ほかにも、洪太さんはあまり人に関心を示さないが、小春さんは人が好きで他人を観察して行動する。洪太さんは自由奔放、小春さんは仕切り屋などなど、ほとんど真逆な性格らしい。

 ちまたでは自閉症支援のマニュアル本もはびこっているが、北海道を中心に自閉症のピアサポート(当事者同士の相互支援)活動を行う菊地啓子さんは、「知識から入るんじゃなくて、その人に何が必要なのか目の前にいる人から受け取ってほしい」と訴える。専門家は自閉症の特性を「空気が読めない」「コミュニケーションが苦手」などとひとくくりにしがちだが、一概には言えない。知識や先入観が時に当事者の可能性を封じてしまうリスクもあると菊地さんは危惧している。

 文子さんも「私は自閉症に対する専門的な知識がないまま子育てをしていたので、逆によかったのだと思う」と振り返る。文子さんは深刻だろうと思われることも、笑いながら話してくれる。失礼ながら、脳天気だと思った。そして、それは寛容ということであり、素晴らしい人間力だとも思う。

 片岡聡さんはそんな中村家の話を聞いて「うらやましい」という。東京大学を卒業した薬学博士でもある片岡さんは、統合失調症と誤診され精神科に入院した経験を経て、5年前にやっと自閉症と診断された。子供の頃、自閉症に多い、ぶつぶつ独り言をいう癖やぴょんぴょん飛ぶ行動があったが、「恥ずかしいからやめなさい」と禁止され、ずっと我慢してきたそうだ。

 「健常者の社会に過剰適応してきた自分すごくつらくて、今、だんだん、ありのままでいいと思えるようになってきた」。そんな彼は知的障がいを伴う自閉症の人たちにシンパシーを覚えるという。「僕が黙って座っていると会話を理解しているように勘違いされるけど、実は5分の1くらいしかわかっていない」。周囲から何でもひとりでできるだろうと誤解され、放置されることがつらい時もあると告白する。

 一人の人として向き合って

 話を聞いている最中、ふと気づいた。この部屋にいる半分以上の人が自閉症だと。いつものマイノリティーとマジョリティーの逆転だ。そして、さらに気づいた。なぜ私たちは、そんなふうにカテゴライズするんだろうと。十人十色というが、自閉症とカテゴライズされた人も当然そうなのだ。一人一人が違う。だからこそ、専門的な知識がなくても、一人の人として向き合ってくれる人がいることで、当事者や家族の暮らしは格段に楽になるようだ。

 たとえば菊地さんが暮らすアパートの大家さん。自閉症によくあるパニックを起こして家を飛び出しても、大家さんが「大丈夫、放っておいてあげれば落ち着くから」と集まってきた人に説明してくれるのだという。文子さんも「交番のお巡りさんに抜群の人がいた」と教えてくれた。小さい頃は迷子になったりパトカーに乗ることが日常茶飯事だった洪太さん。交番から「洪太君、家にいますか? いないなら、今、ここにいるのが洪太君です」と電話がかかってきたことがあったという。

 自閉症は分かりづらい障がいだといわれるが、「理解と対応が難しい」と考えるか、「同じ人間だもの。何とかなるよ」と考えるかで、ずいぶん違うのではないだろうかと感じる。

 一緒にいると気づくことがたくさんある。撮影の時、洪太さんのお気に入りの言葉「タンクローリー! タンクローリー!」をみんなで笑いながら叫び続けた。無理やりやらせようとするのではなく、こちらも楽しみつつ合わせてみることでうまくいくんだと知った。本やネットで調べたり学んだりするのも大切だが、一緒にいることで気づきが身につく。ちょっとした気づきで、相手も自分らしくいられ、私自身もラクになるのなら何よりだ。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/撮影:フォトグラファー 越智貴雄/SANKEI EXPRESS

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