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シャネル・ネクサス・ホール「Alaska」マルク リブー写真展 京都に巡回
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帯匠の古い蔵に白い空間がつくられ、極北の地に息づく人々の暮らしがつづられる=2015年4月17日(提供写真) ≪帯匠の蔵に広がる白い大地 写真が世界を結ぶ≫
古くからの呉服商が居住まいを正して軒を連ね、京都でも指折りの由緒を誇る室町通りに「誉田屋(こんだや)源兵衛」の壮麗な町家が1738年に創業した帯問屋の大店(おおだな)にふさわしい風格を漂わせる。中庭の先には六角形のドームも印象的な「黒蔵」があり、そこで開催されている「Alaska」マルク リブー写真展では、美しくも厳しい極北の大地に息づく人々の営みが刻まれている。
1923年、リヨンに生まれたリブーは30歳のとき、軽業師のようにエッフェル塔の鉄骨を塗る職人の姿を捉えて名声を得た。冷戦ただ中の時代に中国やベトナムをいち早く取材し、生きた人間の真実をあたたかな視線に写し取るなど、世界の巨匠として知られる。58年には日本を訪れ、その冬に北米のアラスカで2000キロに及ぶ冒険の旅に出た。
今回の展示は1月に東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで紹介された多くの未発表作品を含む巡回展。雪と氷で覆われた地に息づく人間の姿と峻厳(しゅんげん)とした自然を活写し、新しい世界を眼前に示しながら、人間の大いなる営みに強い共感を寄せ、見る者に自らの存在の意味を問いかける。
誉田屋源兵衛の当代、10代目は伝統の技術に革新の精神を注ぐ帯匠として名をはせ、凛(りん)とした空気が屋敷の中を満たす。リブーは歴史の証人としてシャッターを押し続け、新しい時代を切り開いてきた。名写真家のみずみずしい感性は京の町家に流れる時間と空間と響き合い、美しい調和を織りなしている。
これは京都市内にちりばめられた歴史的建造物やモダンな建築物の空間で15の会場を設置し、9カ国14組の作家が参加する「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」の一コマだ。今年で3回目を迎え、撮影者と被写体の関係性は見る者の胸に語りかけ、作品の中にある世界は観賞する者の内なる世界と響き合い、人と人が心を通わせ、すべての違いを超えて結びつけていく力となっている。
「いろいろな価値観、違う考えを認めて暮らすことができれば、争いはなくなるのではないかと、人間の集まりを意味する『TRIBE(トライブ)』をテーマにしました。血や土地などのつながりだけでなく文化や歴史、思想やポップカルチャーも含め、写真を通して互いのアイデンティティーを理解し、新しい価値がもたらされればと願っています」
フェスティバルの共同代表で照明家の仲西祐介は、それぞれの展示に通底する精神をこう説明する。もう一人の共同代表でフランス出身の写真家、ルシール レイボーズも「さまざまな人がそれぞれの暮らしを営み、人間の可能性は大きく広げられ、豊かさと彩りが世界を満たしています。そこには違いがあり、それゆえに対立も起こりますが、それを乗り越えるために芸術が大きな役割を果たすのではないでしょうか」。
2人は世界で最も歴史のある南仏のアルル国際写真祭を訪れ、日本でもアーティスト同士が情報を交換しあい、すべての人に向けて発信する本格的な国際写真祭が必要だと思い立った。2011年から京都に居を構え、市内を一つ一つ回り、一人一人に説明しながら大きな輪を作り上げてきた。
仲西は「古いヨーロッパの都市と同じサイズで、世界を魅了し、古いものと新しいものが共存しながら文化や人の暮らしが息づく場所として、京都が最もふさわしいと考えました。写真を美術館から出し、自然や生活の中に置くことで、新たな意味がもたらされ、さまざまな感じ方が生まれると思います。古い寺社やいろいろな時代の建物を会場とし、作品と会場が一体となり、そのもの全体が作品となって、さらに大きな感動が生み出されればと願っています」と熱意を語る。
2013年に始まった写真祭は初回から14カ国から20のアーティストが参加。来場者は延べ5万7413人を記録した。共同代表2人の大いなる情熱の結実だが、シャネル・ネクサス・ホールは早くから強い共感を寄せ、第1回から参加している。二条城で行われた初回の展示は大型プリント作品を天井から吊(つ)り下げて写真と会場が一体となり、フェスティバルの精神をも高らかに示した。
レイボーズは「テーマを決めると作家が手に手を取るように集まる。作品は空間とさまざまに響き合い、心と心をつないでいく」と目を細める。見る者の胸に忍び込むヨシダ キミコのセルフポートレートも、山谷佑介が深い黒に示す大阪のパンクやスケーターも、町家の中で輝きを強くする。ロジャー バレンが描いた南アフリカの日常は時空を超えて人間の真実を突きつけ、中国写真界の先駆者、榮榮(ロンロン)と日本女性の映里(インリ)がつづる山里の情景は古刹(こさつ)の中庭に静かな息遣いを刻むなど、多様な世界が待ち受けている。
=敬称略(文:谷口康雄/撮影:フォトグラファー 高嶋克郎/SANKEI EXPRESS)
■「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」 5月10日(日)まで。「Alaska」マルク リブー写真展 Presented by CHANEL NEXUS HALL。誉田屋源兵衛 黒蔵(京都市中京区室町三条下ル西側誉田屋奧)ほか京都市内全15会場。KYOTOGRAPHIE office (電)075・708・7108
リブー展は入場無料。<一般>700円、500円、<パスポート>2500円。開場日時は会場ごとで異なる。公式HP:www.kyotographie.jp