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【Q&A】物価目標先送り 想定外の原油安 円安「副作用」も懸念

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【Q&A】物価目標先送り 想定外の原油安 円安「副作用」も懸念

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金融政策決定会合後の記者会見を終え、席を立つ日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁=2015年4月30日、東京都中央区日本橋本石町の日本銀行本店(共同)  日銀は、2%の物価上昇目標の達成時期を先送りし、黒田東彦(はるひこ)総裁の就任時の目標を事実上断念しました。

 Q 物価上昇目標とは何ですか

 A 商品やサービスの価格の変動を示す「消費者物価指数」が、前年より2%上昇するよう目標を設けて金融政策を運営することです。物価が下がり続けるデフレからの脱却を目指し、日銀が2013年1月に導入しました。

 Q 目的は

 A 物価が上がれば企業の売り上げが増え、従業員の賃金を増やすことが期待されます。企業が工場や設備を新しくし、個人がたくさん買い物をするようになれば、経済の好循環が生まれると考えました。

 Q 海外でも導入されているのですか

 A 米国や英国、韓国、カナダなどが導入しています。ただデフレ脱却が目的の日本とは異なり、海外では行き過ぎたインフレの抑制を目的としている例が目立ちます。日銀の物価目標の有効性について専門家の意見は分かれています。

 Q 目標達成の時期が遅れる原因は

 A 最近の原油安が大きな要因です。原油価格は昨年夏のピークから、今年の春先にかけて半値程度まで下落し、ガソリン価格や原材料費を押し下げました。黒田総裁は4月30日の記者会見で「これほど大幅な原油安は誰も予想していなかった」と述べました。

 Q デフレ脱却が遠のくのではないですか

 A 黒田総裁は、15年度後半にかけて物価の上昇ペースが加速するため、目標実現の約束を「変更する考えはない」と強調しましたが、最近は金融緩和によって進んだ円安の副作用を懸念する声が強まっています。

 Q 副作用とは

 A 目標達成を急いで日銀が追加金融緩和に踏み切れば、さらに円安が進んで輸入物価が上昇し、中小企業の業績や家計を圧迫しかねません。昨年4月の消費税増税以降、物価上昇のペースに賃上げが追い付かず、消費不振で景気回復は遅れています。デフレ脱却は安倍政権の最重要課題ですが、金融緩和に頼り過ぎるのは禁物です。地方創生や中小企業の収益底上げを図り、現在は大企業や輸出企業に恩恵がとどまっているアベノミクスの成果を波及させていくことも課題です。

 ≪現実的な対応≫

 ■農林中金総合研究所の南武志主席研究員 「日銀が物価上昇目標の達成時期を先送りしたのは現実的な対応だ。いずれ先延ばししなければならないとの見方は市場でも共有されており、サプライズではない。日銀は物価に関して、基調の動きと原油価格下落による動きを分けて考えると強調してきた。基調は変わっていないと判断している以上、追加緩和という手段は取れなかった。消費動向調査などをみると消費者の物価見通しは高止まりしており、日銀の主張はある程度理解できる。日銀の予想通り経済成長が続けば、賃金はさらに上がり、物価を押し上げていくだろう」

 ≪追加緩和が必要≫

 ■三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二景気循環研究所長 「日銀は追加の金融緩和を実施するべきだった。物価の基調に関してはさまざまな見方があるが、全体として(上昇の勢いが)弱くなってきている。その原因は原油価格の下落だけではない。消費者物価指数は近く前年同月比でマイナスに転じる可能性が高く、物価上昇期待も後退する恐れがある。先んじて対応するのが黒田日銀の特徴だったが、以前の日銀に逆戻りしたとの印象を海外の投資家などに与えないか心配だ。2016年度前半に物価上昇目標を達成するためには、展望リポートの中間評価が出る今年7月にも追加緩和に踏み切るべきだ」(SANKEI EXPRESS

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