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ハッキング容疑 MLB騒然 カージナルス、アストロズ機密入手か
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古巣カージナルスの選手と談笑するアストロズのジェフ・ルノーGM(右)=2013年2月25日、米フロリダ州ジュピター(AP) 米大リーグ(MLB)の名門セントルイス・カージナルスの球団関係者がヒューストン・アストロズのデータベースに不正アクセスして、選手の個人データや他球団とのトレード交渉内容などの機密情報を入手していた疑いがあるとして、米連邦捜査局(FBI)と司法省が捜査していることが17日までに分かった。米プロスポーツ界を舞台にしたサイバー犯罪の真相は-。
6月16日付米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)がスクープし、他の米主要メディアが追随した。報道によると、きっかけは昨年6月、アストロズのデータベースシステム「グラウンド・コントロール」が何者かによって不正アクセスされ、選手のトレードに関する情報がネットに流出したことだった。
事態を重くみたMLBはFBIに捜査を依頼。不正アクセスの経路をたどったところ、かつてカージナルスの複数の球団職員が住んでいた住居から不正アクセスされていたことが判明した。アストロズの「グラウンド・コントロール」には各選手に関するデータや今後のトレード、スカウト情報といった重要なデータが入力されていた。
1882年創設のカージナルスはナ・リーグ中地区の名門で知られる。2011年にはワールドシリーズで11回目の優勝を果たし、ニューヨーク・ヤンキースに次ぐMLB史上2番目の優勝回数を記録、ナ・リーグでは最多となった。
一方、アストロズは1994~2012年まではカージナルスと同じナ・リーグ中地区に所属し、ライバル関係にあったが、13年からはア・リーグ西地区に移った。このため、現在は通常のリーグ戦で両者が戦うことはないなか、カージナルスが不正を犯してまでアストロズのデータを入手する必要はないはずなのだ。
こうした疑問に、捜査当局は、アストロズのゼネラルマネジャー(GM)を務めるジェフ・ルノー氏に恨みを持つカージナルスの球団職員の犯行との見方を強めている。
メキシコ生まれの米国人であるルノー氏はMBA(経営学修士)取得者で、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務した後、コンサルティング会社を立ち上げるなど優れた経営学のセンスを持つ人物で知られる。
カージナルスのオーナーと仕事で懇意だったことから1994~2011年までカージナルスでスカウトと選手育成を担当、米映画「マネーボール」で脚光を浴びた、膨大なデータをもとに統計的手法で勝利に導く“データ野球”を標榜(ひょうぼう)。この理論に基づく新データベース「レッドバード」を構築するなどして、チームの成績を大きく躍進させた。
この功績が評価され、11年にはアストロズにヘッドハンティングされGMに就任。ここでもデータベース「グラウンド・コントロール」を新たに立ち上げるなど、現在も“データ野球”を重視し続けている。
しかし、スポーツの現場には精神論や感覚を重視する人もおり、ルノー氏のデータ野球への反発も少なからずあったとみられる。
このため、捜査当局は、ルノー氏に恥をかかせて、アストロズを混乱させるのが目的だったとみている。ルノー氏が両球団で構築したデータベースは似ており、カージナルスの球団関係者の間で使い回されたルノー氏のパスワードが悪用された可能性もあるという。
高度な技術を駆使するイメージの強いサイバー犯罪だが、その理由はかなり人間くさいものといえるかもしれない。
ルノー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に「今はすべての会話は紙と鉛筆を使っているよ」とつぶやいている。(SANKEI EXPRESS)