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小津作品ヒントに人物像構築 映画「アリスのままで」 ウォッシュ・ウェストモアランド監督に聞く
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撮影現場でジュリアン・ムーアやスタッフたちに演出の意図を説明するウォッシュ・ウェストモアランド監督(中央)=2014年4月2日(ブレイントラスト提供) すでにベルリン、カンヌ、ベネチアの世界三大映画祭で主演女優賞をすべて手にしているジュリアン・ムーア(54)。このほど、その輝かしい栄冠のリストに、米アカデミー賞主演女優賞も加えられることとなった。作品はウォッシュ・ウェストモアランド(49)、リチャード・グラッツァー(1952~2015年)が監督を務めた「アリスのままで」。人生の円熟期を迎えた聡明な女性学者が突然若年性アルツハイマー症を患い、少しずつ記憶を失っていく様子を、リアルに、しかし静かに寄り添うような繊細なタッチでつづっている。
SANKEI EXPRESSのメール取材に応じたウェストモアランド監督は「若年性アルツハイマー症にどう対処すべきかを鑑みて、主人公アリスは患者とその家族に大きな勇気を与える見本となったと信じています。アリスは持てる全身の力をすべて注いで、病の進行をコントロールし、本来の自分自身であるよう維持もして、病と自分とのバランスを取っていました。もし私の身に同じことが起きた場合、せめてアリスが放出した力の半分だけで同じ対処ができるよう願うだけです」と強調した。
コロンビア大学で教鞭(きょうべん)をとる名うての言語学者、アリス(ムーア)は、講義中に言おうとする単語が思い出せなくなったり、ジョギング中に自宅への道が分からなくなることが多くなった。医師の診断は「若年性アルツハイマー症」。夫のジョン(アレック・ボールドウィン)、長女アナ(ケイト・ボスワース)、次女リディア(クリステン・スチュワート)の介護もむなしく、アリスの記憶や知識は薄れていく。すべての記憶が失われてしまう前にアリスは意を決してある計画を実行に移す。
本作は家族が患者をどう支えるべきかも問うているが、ウェストモアランド監督は、真剣かつ積極的に関わり、自分なりに答えを出そうと努めたスチュワートの姿に目を見張った。「リディア役は彼女の代表作『トワイライト』シリーズの役どころとは全く趣を異にします。スチュワートはムーアと同様、メジャー作品と並行して独立系の作品にもよく出演しているんですよね。彼女はとてもタフで、胸の内には感情を蓄積するための莫大(ばくだい)な貯蔵庫を備えていました」。ときにプライベートでの派手な交友関係ばかりがクローズアップされるスチュワートの“意外”な職人気質ぶりを紹介した。
ウェストモアランド監督は、日本の名監督、小津安二郎(おづ・やすじろう、1903~63年)の作品に登場する折り目正しい人物を強く意識して人物像を構築したという。「日本人ならば、アリス一家が見せてくれるダイナミックな演技は、小津安二郎監督の傑作『東京物語』をひな型にしたものだと、すぐに分かるでしょう。ちなみにリチャードと私はリディア役の人物造形について『過去において最も素晴らしい女優は誰か?』と考えたうえで、日本の名女優、原節子さんからヒントを得たんです」。6月27日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS)