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【クレモンティーヌのパリ便り】「水曜日の訪問者」はいつもごきげん
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生きる希望って大切ですよね(提供写真) 皆さん、お元気ですか?
パリは6月に入り、やっと太陽が元気になり始めました。5月も天気が良いことが多いのですが、今年は朝晩冷える日は4度ぐらいまで下がり、たまにダウンジャケットを着ていたくらいです。6月のパリの必需品はサングラスと日焼け止めクリーム。なぜならばパリですてきな場所の一つはカフェのテラスだからです。これから7月末までテラス争奪戦は続きます。
今日は皆さんにわが家の「水曜の午後の訪問者」についてお話ししたいと思います。彼女の名前はナディーン。私が学校を卒業してからプロシンガーになるまでの2年間働いていた、メゾン系の宝飾店の先輩です。私はともかく、ナディーンは皆さんが想像する宝飾店の女性そのもののゴージャスな女性。いつもきれいにセットされた髪の毛に、少し威圧感さえあるブラックスーツがよく似合うパリのマダムです。つい数年前まで本店のマネジャーを務めていました。
そんな彼女に思いもしなかった問題が生じたのは今から5年ほど前のことです。物忘れがひどいことを気にしていた彼女を無理やり病院に連れていくと、検査の結果、若年性アルツハイマーと診断されてしまったのです。彼女が病と向き合うまで時間もかかったし、自暴自棄にならないように姉と私と彼女の3人で何度も話しましたが、少しずつ記憶を失っていく友人を見ているのは本当につらかった…。3年前から専門の施設に入り、今では自分が病気であることも認識できていません。
1日に100回以上の彼女の電話に応答し続けていましたが、少しわが家の生活にも支障をきたしはじめました。先生に相談したところ、週1回の外出許可を出してくれました。そこで水曜の12時にわが家の誰かがナディーンを施設に迎えに行き、ランチを食べながらたわいもない話をしたり、お化粧をしたり、髪をセットしたりしながら時間を過ごし、5時にはすっかりきれいになったナディーンを施設に送り届けることにしました。それ以来、彼女はわが家の「水曜日の訪問者」となったのです。
先週の水曜のわが家からの帰り道、パンテオン(18世紀後半に聖ジュヌビエーブ教会として建設され、後にフランスの偉人たちが埋葬されることになった霊廟)で行われていたセレモニーに参列していたフランソワ・オランド大統領に大興奮したナディーンから「すてきな水曜の午後だったわ」という電話をもらったのは6時過ぎでした。そして明日になったら彼女はそんなことは忘れてしまうんでしょう。
それでも私は「水曜日の訪問者」が大好きです。
日本でも今月末に公開されるジュリアン・ムーアが第87回アカデミー賞で主演女優賞を受賞した映画「アリスのままで」は、そんなナディーンと同じ若年性アルツハイマーを抱える女性アリスが記憶を失っていく日々を描いた作品です。重いテーマですが、皆さんぜひ見てください。
自分の人生、自分で決められることばかりではありません。とにかく今この瞬間を大切に生きたい。何が起こっても受け入れることは簡単ではないけれど。
Alors je peux vous dire qu’elle est contente quand elle vient le mercredi.
Bien sur moi aussi!(そんなわけで、水曜日の彼女はいつもごきげん。もちろん、わたしも!)