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「沈黙」こそ、最も大切な要素 映画「サイの季節」 バフマン・ゴバディ監督インタビュー
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10年ぶりに来日したバフマン・ゴバディ監督は「年老いた女性を演じるモニカ・ベルッチの新境地を見てほしい」と語った=2015年6月4日、東京都渋谷区(高橋天地撮影) 世界中の人の心を動かすとびっきり芸術的な作品を撮ろう-。写真に対して激しく燃やした若き日の執念が、独特な美しさを持つ数々の映画作品へと昇華された。
政治的な事情から心ならずも故郷イランを離れた後、イラクのクルディスタン、トルコのイスタンブール、米ニューヨーク、仏パリと居を転々としながら映画撮影を続けてきたクルド人初の映画監督、バフマン・ゴバディ(46)の作風は、イラン革命を背景に愛欲と狂気に満ちた男女の三角関係を描いた新作ドラマ「サイの季節」でも変わらない。
本作は、クルド系イラン人の詩人、サデッグ・キャマンガールの実体験をベースに、ゴバディ監督が脚本を執筆した社会派ドラマ。イラン革命を背景に愛欲と狂気に満ちた男女の三角関係が描かれている。10年ぶりに来日したゴバディ監督はSANKEI EXPRESSの取材に「静かな仕上がりになったと思います。『沈黙』こそ、私がこの映画で最も大切にした要素なのです」と紹介した。
《イラン革命のさなか、反革命的な詩を発表したとして詩人、サヘル(ベヘルーズ・ヴォスギー)が逮捕された。夫の帰りをひたすら待ち続けていた妻のミナ(モニカ・ベルッチ)は、当局から「夫は獄死した」と信じ込まされ、後ろ髪をひかれながらもついに新たな生活へと足を踏み出す。30年後、釈放されたサヘルは、最愛の妻の行方を捜す中、自分が「亡き者」とされていた事実を知り愕然(がくぜん)とする。記憶をさかのぼれば、サヘル逮捕の前後から、ミナには常にアクバル(ユルマズ・エルドガン)という男の影がちらついていて…》
本作がイスタンブールで撮影されたのは7年前。ゴバディ監督は前作「ペルシャ猫を誰も知らない」(2009年)を完成させた後、家族を残してイランを離れていた。当局の許可を得ずに街中でゲリラ的に撮影したため、イラン国内で映画制作がしにくい状況に追い込まれてしまったのだ。「『サイの季節』の映画化に着手したとき、僕はかなり落ち込んでいました。移り住んだ先では言葉(トルコ語、アラビア語、英語、フランス語)が分からず、本来、おしゃべりな僕はすっかり沈黙するようになってしまったのです」。基本的にペルシャ語しか解さないゴバディ監督が経験したこのときの陰鬱な気持ちが「サイの季節」の出発点となり、必然的に静かな作風へとつながっていったという。
ただ、本作の底流にあるのは、ゴバディ監督の個人的な感情だけではない。「イランの国民的スターで主演を務めたヴォスギーは、イラン革命後に米国へ移り住み、35年間もの間、実質的に引退に追い込まれていた人物です。本作で久しぶりに俳優へ復帰した彼の気持ちも、また私と同じで、悲しみに満ちたものでした。モデルとなったキャマンガールにいたっては25年間の獄中生活を余儀なくされた。そんな過酷な環境で沈黙を強いられた彼の詩もまた静かなものだったんです」
「イタリアの宝石」と称され、グラマラスな美貌で世界中の男性の視線をくぎ付けにしてきたベルッチが、本作では初めて老年に差し掛かった女性を演じたこともファンを驚かせた。「ベルッチとは知人でした。何度か映画祭で話した程度です。私は大勢の女優たちにヒロインのオファーを出しましたが、すべて断られていました。いよいよ撮影が1週間後に迫り、駄目でもともとと思い、ベルッチに連絡をとったところ、彼女は『パリで話しましょう』と返事をくれました。3時間ほど彼女に作品や映画化の意図について説明しました。すると『いいですよ』と出演を承諾してくれたのです。なんと彼女はギリシャ映画の出演をキャンセルしてくれました」
一体、口説き文句は何だったのか? 「ベルッチにはこう言いましたよ。僕は子供の頃からヴォスギーの大ファンでした。そんな彼が35年も映画に出演できなくなってしまったので、僕はどうしても何かをしたくなり、ヴォスギーに会って『あなたの映画を作る』と約束したんです、とね。すると、ベルッチは『そういう事情でしたら絶対に出演します』と快諾してくれたのです」。人生に疲れ果て、老いさらばえた薄幸の女性役を演じることになる-と念を押すと、ベルッチは「そういう役を演じたことがないので、とても興味があります。撮影の日を楽しみにしています」と答え、逆にゴバディ監督を勇気づけたそうだ。7月11日から東京・シネマート新宿ほかで全国順次公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)
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