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レタス畑で宇宙に憧れ 「中年の星」妻も後押し

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レタス畑で宇宙に憧れ 「中年の星」妻も後押し

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ソユーズ宇宙船から国際宇宙ステーション(ISS)に入室し、OKサインを出す油井亀美也(ゆい・きみや)さん=2015年7月23日(NASAテレビから、共同)  ≪油井さんISS到着「地球、すごくきれい」≫

 「中年の星」が宇宙に-。油井亀美也(ゆい・きみや)さん(45)ら3人が搭乗するソユーズ宇宙船が23日午前3時2分(日本時間同6時2分)、国際宇宙ステーションに向けてバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、約6時間後に高度約400キロのステーションに到着した。

 ハッチを開けて入室した油井さんは滞在する飛行士に迎えられ、笑顔で抱き合い喜んだ。家族と交信し「地球がすごくきれいで言葉がないぐらい。みんなに見せてあげたい」と話した。

 初飛行の油井さんは12月まで5カ月間滞在し、日本実験棟「きぼう」での科学実験や無人補給機こうのとり5号機のドッキングなど多様な任務に携わる。

 日本人の宇宙飛行は10人目で、ステーションの長期滞在は船長を務めた若田光一さん(51)に続き5人目。宇宙船は2枚の太陽電池パネルのうち1枚が開かなかったが、飛行に支障はなかった。

 「新世代」の飛行士

 油井さんは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2009年に10年ぶりに採用した「新世代」の飛行士。航空自衛隊のテストパイロット出身で即戦力と期待され、ソユーズ宇宙船では万一のときに船長に代わって操縦を担う役割を務めた。

 そんな油井さんが宇宙に興味を持ったのは少年のころ。生まれ育ったのは星空の美しい長野県川上村。姉2人の3人きょうだいで、父、●(=ごんべんに甫)司さん(78)は「レタス農家の跡継ぎができた」とかわいがった。「3人でよく農作業を手伝った」。姉の関口夏美さん(53)は振り返る。

 油井さんは父の農作業を毎日手伝い、小学3年生のころ天体望遠鏡を買ってもらうと、人家の明かりが届かないレタス畑で深夜まで1人、望遠鏡をのぞき続けた。●(=ごんべんに甫)司さんは迎えに行き、誘われるまま望遠鏡をのぞいた。「土星にピントを合わせ、ずっと待っていた。きれいに輪が見えた」と懐かしんだ。こうした日々が忍耐強さや集中力を育んだ。

 さらに農作業では、1日にレタス200箱超を出荷する両親のもと、段ボール箱を組み立て、収穫する父の手元に差し出した。手際が悪いと叱られるため、両親の動きを見て効率的な手順を考えた。先輩飛行士の若田光一さんは、油井さんを「優先順位を把握しながら作業する能力が高い」と評価する。

 「次は船長狙える」

 その後、経済的な理由で防衛大学校に進み、航空自衛隊に。米空軍のパイロット養成施設で、テストパイロットが有人宇宙開発を先導した米映画「ライトスタッフ」を見て感激し、操縦技術を磨いた。

 2008年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が10年ぶりに実施した飛行士選抜試験に応募した。関口さんは「落ちるのが親孝行だよ」と思わず忠告、自衛官を辞めることに●(=ごんべんに甫)司さんも反対した。だが、恭代さん(46)は「受けてみたら」と背中を押してくれた。

 1000人近い応募者のなか、試験を次々と突破して、歴代最年長の39歳で選抜された。合格後、恭代さんが「人生が変わってしまった。余計なことをしたかな」と尋ねると、「良い方向に変わったよ」と答えが返ってきた。

 「集団行動の時に『私が、私が』と前に出るタイプではないが、安定して高いレベルで作業するので周りが疲れてくると、彼は光り出す」と、JAXA選抜事務局の阿部貴宏グループ長は話す。「リーダーシップは備わっている。今回実績を残せば次の機会に十分(船長を)狙える」と期待する。

 小学校の卒業文集に「20年後ぐらいには(中略)火星に行っている」と書いた油井さん。大きな夢に一歩近づいた。(共同/SANKEI EXPRESS

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