オーナー自ら操るという選択肢 幽霊のように舞うロールス・ロイス「ゴースト」
まだ心の準備が整わないまま大きなリヤシートに体を預けたのだが、その瞬間にこれまで取材してきたクルマでは味わうことのなかった未知の感覚が全方位から畳み掛けてきた。重厚感のある手縫いのレザーシートは何とも言えない不思議な触感で、筆者が知っている本革とは明らかに異なるものだ。クッション型のヘッドレストは、高級ホテルの枕のように後頭部を優しく包み込む。足元には毛足の長いラムウールのフロアマットがびっしりと敷き詰めてあり、足裏と床の接地感は浮いているかのように皆無。「ガチャン」ではなく「カッ…チャン…」としっとり上品にクローズするコーチドアは、まるで金庫の扉を閉めるかのようだ。レッグスペースは脚を組んでも前席が遠く感じるほど広々。重みのあるシートバックテーブルは高級家具のように質感が高い。灰皿もタバコを吸うためというよりは、葉巻を置くためのホルダーを取り付けたシガー用アシュトレイであることが分かる。これでもすでに驚きの連続だったが、“カルチャーショック”の極めつけは、真昼間の天井に広がる“満天の星空”だ。これは1300個超の光ファイバーライトを高級レザーの中に張り巡らせた「スターライト・ヘッドライナー」という装飾で、何とオーナーが選んだ星座を描いてもらうこともできるそうだ。これはあくまでオプション装備なので、不要と思えば取り付けないという選択肢もちゃんとある。
車内に流れる「静寂の音」
東京駅周辺からアクアラインを経由して千葉県富津市を目指す。今年9月にVWティグアンの撮影で訪れた東京湾に面した町だ。
小島記者が6.6リッターの大排気量ユニットに火を入れると、エンジン音を主張することなくひっそりと起動する。というよりも、おそらくふんだんに使っている遮音材と吸音材が、ノイズの侵入を完全にシャットアウトしているのだろう。出発の準備が整うと、初動のショックを微塵も体に伝えることなく、氷上を滑るようにスーッと無音で走り出す。「えっ! 本当にもう走ってるの?」。もし目隠しをしていたら、アクセルを踏んだ瞬間を感知するのは相当に難しいだろう。そう思わせてしまうほどにすべてがスムーズだ。