SankeiBiz for mobile

反日デモは中国人の「お祭り」 暴れて憂さ晴らし…日本企業に再考の時間

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

反日デモは中国人の「お祭り」 暴れて憂さ晴らし…日本企業に再考の時間

更新

 中国で8月から9月にかけて激化した反日デモは、日系企業の工場や店舗の破壊、日本製品の不買運動に発展し、製造拠点を集中し売り上げを依存する“中国リスク”が顕在化した。中国進出を検討している日本企業にとって、まさに冷や水を浴びせられる事態だが、上海でデモを目の当たりにした経営コンサルタントの呉明憲(ご・めいけん)TNCソリューションズ代表(44)は「ゆっくり考える時間を与えられたと考えるべきだ。こんなに良い機会はない」と、意外な提案をしている。

 デモは中国人にとってお祭り

 呉氏は神戸育ちで香港、台湾の国籍をもち、1998年に日本に帰化。日本の都市銀行を退職し、10年前にTNCソリューションズを立ち上げ、日本の企業に中国進出のコンサルティングを行ってきた。経歴からも中国に対する造詣は深く、上海では実際に日本総領事館でのデモの光景を間近で見た。

 そして呉代表は当時の感想をこう振り返った。

 「ひと言でいうと、祭りだった」

 呉氏は日本総領事館の近くからデモを眺めていたが、集団を50人くらいに区切り、代わる代わる領事館の前まで近づくよう、警察隊が整然と“交通整理”していたのを目にした。

 呉氏は「言葉のなまりで地方から来た人が多いなあと感じた。領土問題は暴れてスカッとするためのきっかけにすぎなかった」と話す。

 現状について、すでに中国に進出している日本企業の態度は「様子見ではないか」と分析。これに対し、これから進出を検討する会社に対しては「じっくり考えればいい」と助言したという。

 中国に過大な期待は禁物

 この助言の裏には、これまでの経験も踏まえ、「何も考えずに中国に進出する企業が多すぎる。進出するだけでは事態を打開することにはならない」という忸怩(じくじ)たる思いがあるという。

 中国では工場の人件費がざっと年20%のペースで上昇。最近は製造業だけでなくサービス業も中国進出意欲が高いが、商業の中心地・上海の人件費は台湾よりも高く、北京と上海の家賃はかなり高いという。

 進出を考える企業にとって、この状況は明らかにデメリットだ。

 パナソニックの3カ所の工場にデモ隊が突入し、設備が破壊されて生産が停止した事件で、同社創業者、松下幸之助氏の「恩」を中国人は忘れていないはずだという思いが日本側にはある。

 だが、呉氏は「幸之助氏の本は書店に多く並んでいるが、そもそも若い工場労働者は幸之助氏を知らない」と指摘する。

 中国に過剰な期待をしてはいけない、というわけだ。

 現地は沈静化し熟慮の機会に

 尖閣諸島に不法上陸した香港の活動家の検挙以降、中国の125都市では反日デモの嵐が吹き荒れた。日本製品のボイコットや沖縄までの領有権などを主張し、日系企業の工場、店舗などに次々とデモが押し寄せた。

 特に日本政府が尖閣諸島の国有化を決定してから最初の週末となった9月14、15日、デモ参加者はそれまでの数百人から全土で最大2万人に膨れあがり、日系企業関係者を震撼(しんかん)させた。

 これを受け、日系企業の間では中国に見切りをつけ、ベトナムやタイなどに進出先を変更すべきだとの強硬論も出始めている。

 しかし、日本を訪れる中国人の団体観光客は新年に向け予約が戻り始めるなど、一部の業界では雪解けの兆しも出ており、呉氏は「すでに中国に根を張っている企業は『これからも中国でビジネスをしていく』と決めている」と、事態の沈静化を予測する。

 中国でのデモで、日本企業のアジア戦略が揺れ動いている。だが、呉氏の視点は、進出に懸念を持つ企業に対し、焦らず熟考する余裕と時間が生まれたはずだとヒントを投げかけている。(南昇平)

ランキング