ニュースカテゴリ:政策・市況
海外情勢
中国、南シナ海権益で我が物顔 カナダ石油大手買収で「海洋強国」に
更新
中国の国有石油企業、中国海洋石油(CNOOC)によるカナダ石油大手、ネクセンの151億ドル(約1兆3730億円)の買収計画が、早ければ3月にも完了する見通しだ。2012年12月に買収を承認したカナダ政府に加え、英米両政府も同意する方向に傾いている。ネクセンは英国バザード油田の権益や、米国沿岸のメキシコ湾に探査拠点を保有しており、買収の完了には3カ国の承認が必要となる。
ネクセンは中国にとって「悲願の買収劇」と映っている。
CNOOCは05年8月に、総額185億ドルを提案した米石油会社、ユノカルの買収計画を、安全保障問題を理由にした米議会の反対で断念せざるを得なかった経緯がある。ネクセン買収が成功すれば、この8年間で中国の経済力や政治力が、欧米に要求をのませるまで拡大したことを意味する。ただ、中国にとってはそれ以上に、ネクセンを通じて手に入れる「深海油田の探索技術」が重大な意味を持つことになるのではないか。
中国メディアが「第2のペルシャ湾」と呼ぶ南シナ海で、海底数千メートルの深海油田開発には、どうしても最新技術の導入が必要だったからだ。ベトナムやフィリピン、ブルネイやマレーシアなどと領有権を争いながら、南シナ海のほぼ全域を自国領だと主張している中国。中東やアフリカ、南米に頼らずとも「自国領内」でのエネルギー供給源確保が、国家戦略として最優先課題と考えている。
中国共産党は12年11月の党大会で「海洋強国の建設」を目標に掲げ、同大会で総書記に就任した習近平氏が率いる新指導部は、12月の中央政治局会議や今月10日の全国海洋工作会議で「海洋経済の発展」を訴えた。
欧州や日本向けなど輸出鈍化で成長スピードに陰りが出始めた国内総生産(GDP)を、海洋の資源開発などで補うとともに、領有権の主張や海域の実効支配、さらにエネルギーや漁業など海洋権益を独り占めする狙いが見え隠れする。中国のGDPに対するエネルギー、造船、観光など海洋関連の経済活動の寄与度は、2000年の約3%から11年には10%近くに拡大した。都市開発やインフラ建設が頭打ちになるころには、海洋経済が「次なる成長の牽引(けんいん)役」になりそうだ。
中国政府は今年、南シナ海で実効支配する島の資源の一斉調査に着手する計画だ。7000メートル級の潜水に成功した有人潜水調査船「蛟竜(こうりゅう)号」も調査活動を始める。CNOOCは香港沖で運用している3000メートルまで掘削可能な大型リグ「海洋石油981」で遠洋の深い油田にまで触手を伸ばす。このリグは中国で「石油空母」とも呼ばれている。
ベトナムなど領有権を争う国の反発に加え、日米豪などの強い懸念をよそに、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)など3諸島を管轄すると称する「海南省三沙市」のインフラ整備に、中国は100億元(約1460億円)を投入する。中国国家海洋局の劉賜貴局長は「海洋経済は海洋強国建設のエンジン」と強調している。南シナ海や尖閣諸島周辺を含む東シナ海で、船舶や航空機による権益保護の姿勢を一段と強めるだろう。
中国は15年までの「第12次5カ年計画」で「海洋での突発事件への対応能力を増強する」と明示し、さらに海底油田も15年までに新たに10億~12億トンの埋蔵量を確認する目標もある。ネクセン買収が成功すれば、習新指導部が照準を合わせた「海洋強国」への号砲ともなる。(上海 河崎真澄)