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衰えた日本経済の「稼ぐ力」 “貿易立国”復活の鍵は成長戦略実行
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日本経済の「稼ぐ力」が落ちている。財務省が8日発表した2012年国際収支速報によると、経常収支の黒字額が比較可能な1985年以降、過去最少となった。
生産の海外移転で輸出が頭打ちの一方、停止中の原発代替で火力発電用燃料の輸入が増加し貿易赤字が膨らむという構造問題を抱えているためだ。巨額の貿易赤字を海外からの利子や配当など「所得収支」の黒字で補う構図のままではじり貧で、輸出増につながる新産業の育成など成長戦略の実行が欠かせない。
海外とのモノやサービス、投資などの取引状況を示す12年の経常収支は前年比50.8%減の4兆7036億円と、2年連続で減少した。これまで年間最少の経常黒字だった1990年の6兆4736億円を22年ぶりに下回り、ピークの07年(24兆9341億円)の5分の1の水準にまで落ち込んだ。減少率も、11年(46.6%減)を上回り過去最大だった。
所得収支の黒字は1.6%増の14兆2613億円と伸びたが、輸出から輸入を差し引いた貿易収支が5兆8051億円と、過去最大の赤字になったのが影響した。
経常収支の今後の見通しについて、財務省は「経済情勢や為替などの動向を注視する必要がある」(国際局)と警戒する。
足元では円安の進行に加え、米国や中国経済の回復で輸出は持ち直しつつある。「来年の経常収支はやや持ち直す可能性がある」(第一生命経済研究所の大塚崇広エコノミスト)との楽観論も広がる。
ただ、国内で原発の再稼働が見通せない中で、火力発電用のLNG(液化天然ガス)や原油などの代替燃料の輸入は拡大基調をたどっている。財務省の調べでは、12年のLNGと原油の輸入額は合計で前年よりも2兆円以上も増加した。円安で輸入金額はさらに増える見通しで、資源輸入が、経常収支を圧迫する状況は変わらない。
事実、安倍晋三総理の経済政策「アベノミクス」期待で円安が進んだ昨年12月の経常収支は2641億円の赤字と、12月単月として初の赤字となり、初めて2カ月連続の赤字となった。円安効果が輸出を促すより前に輸入金額が上がったというわけだ。
さらに、日本企業は昨年11月までの円高局面を受け、国内生産を縮める一方で、海外の消費国で生産する地産地消型のモデルに急速にシフトした。産業構造が変わる中で「経常収支の縮小は今後も続く」(ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミスト)との見方は根強い。
日本経済が稼ぐ力を取り戻すには、規制改革や民間の活力を引き出す成長戦略の早期の実行が不可欠。新エネルギーや医療機器といった競争力のある製品領域の強化で経済体質を強めることが“貿易立国・日本”復活の鍵を握る。(今井裕治)