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日本酒の輸出拡大“仕込み” 酒蔵ツーリズムで官民連携本格化

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日本酒の輸出拡大“仕込み” 酒蔵ツーリズムで官民連携本格化

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日本酒の生産量と輸出額  日本酒の輸出を官民連携で後押しする取り組みが本格的にスタートする。酒造業界や旅行会社、インターネット関連ベンチャーなどの民間企業と観光・商工団体や地方自治体、関係省庁が参加し、3月下旬に酒蔵ツーリズム推進協議会を観光庁の主導で結成。日本酒を地域の観光資源に育てて輸出拡大を図るとともに、訪日外国人の増加を狙う。観光資源としての魅力を併せ持つことで、廃業が続く酒造業界の底上げにもつながるとの期待も膨らんでいる。

 最高賞選出追い風

 「人口が約3万の市で開いた2日間のイベントに3万人も集まるとは、全く想像していなかった」。佐賀県鹿島市商工観光課の担当者は、1年近く前の盛況ぶりをこう振り返る。

 2012年3月下旬、市内にある6つの日本酒の蔵元と観光団体などが連携し、「酒蔵ツーリズム」を初開催。関西や関東からも観光客が押し寄せ、酒蔵の一般開放(蔵開き)を楽しんだ。

 「日本三大稲荷」の一つに数えられる祐徳稲荷神社への参拝客を中心に、鹿島市を訪れる観光客は年間300万人にのぼるものの、日本酒の生産地としての知名度は高くない。

 耳目を集めるきっかけになったのは、ロンドンで毎年開かれる「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」。11年9月、206蔵が出品した日本酒部門で468銘柄の中から地元の富久千代酒造の「鍋島 大吟醸」が最高賞の「チャンピオン・サケ」に選ばれたのだ。

 IWCは世界最大の規模を誇るワイン品評会で、日本酒を対象とする「SAKE」部門は07年に新設された。世界中の流通業者やワイン愛好家が関心を寄せ、受賞した銘柄は入手が困難になることも少なくない。SAKE部門は品質の高い日本酒の存在を現地のバイヤーに浸透させる原動力になっている。

 もっとも、日本酒の国内生産量は06年度の約51万キロリットルと比べて11年度には約14%減の約44万キロリットルに落ち込むなど、人口減や日本酒離れを背景に減り続けている。

 05年に1400超だった全国の蔵元数も12年には1260に減少。その一方、海外での日本食人気の定着化などに伴って輸出額は米国や香港、韓国向けを中心に年々増え、11年度は05年度比62%増の88億9000万円に伸びた。それでも輸出量は国内生産量の数パーセントにすぎない。

 輸出の拡大余地は大きいとみて東北や北陸、中国、九州など全国の蔵元も需要の掘り起こしに動き始めている。

 大手の宝ホールディングスは12年10月、シンガポールに現地事務所を設け、経済成長による所得向上を背景に需要が伸びている東南アジアでの拡販に乗り出した。

 地域振興にも貢献

 そうした中、酒蔵ツーリズム推進協議会は今年1月に閣議決定された緊急経済対策で「日本産酒類の総合的な輸出環境整備」の一環として位置づけられた。観光庁観光資源課の担当者は「酒蔵見学にとどまらず、食や伝統文化などが絡む地域の連携が生まれれば、地元経済の振興につながる。新しいビジネスが登場する場に協議会がなればいい」と意欲をみせる。

 蔵元や地域の意識の高まりに旅行業界も注目する。酒造りは数百年にわたって受け継がれてきた伝統産業だけに「神社や仏閣など日本的なものを好む外国人向けの観光資源になり得る」と、大手旅行代理店の訪日旅行担当者は分析。

 海外から自家用ジェット機で富裕層のセレブが蔵元に酒を買いに来た話もあるといい、担当者は「外国人向けの国内周遊プランに酒蔵を組みこむ例も出てくるなど開発余地は少なくない」と指摘する。

 実際、酒蔵の一般開放に取り組む蔵元は全国各地にあり、観光資源としての潜在力を秘める。福島県会津若松市の末廣酒造では、約15年前から一般公開や有料の酒造り体験を始め、東日本大震災前は年間約1万人の見学者を受け入れてきた。

 収益増につなげるのは難しいものの、新城猪之吉社長は「消費者が自分の目で確かめる機会を通じ、ブランドの認知を広めることにつながる」と、酒蔵ツーリズムの効果を重視する。

 全国の蔵元の若手経営者らで組織する日本酒造青年協議会の「酒サムライ」事業コーディネーターを務めるコーポ・サチ(相模原市)社長の平出淑恵さんは「酒蔵ツーリズムで日本酒づくりが内包する文化も伝えてこそ、日本産の日本酒の希少価値と世界での地位を確立できる」と指摘。

 その上で「タイミングを逃せば外資企業に海外で日本酒を大量生産されかねない」として、海外需要の開拓を図る蔵元を支援する意義を訴えている。(日野稚子)

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