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無力な中央銀行 白川前日銀総裁が感じたアベノミクスの「危うさ」
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退任の記者会見をする日銀の白川方明氏
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁ら新執行部初の政策決定会合が3日始まり、緩和策加速や拡大方針が打ち出される。
白川方明(まさあき)前総裁は物価上昇率2%の達成に自信満々の黒田体制に「危うさ」を感じつつ日銀を去ったが、関係者によると、白川氏は昨年12月、日銀による国債引き受けや大胆な金融緩和を迫る安倍晋三政権の誕生が確実視されていた衆院選を前に、要求をのむか、独立性を守るかで揺れる苦しい胸の内を日銀OBらに吐露していた。
このとき白川氏は「要求を拒めば次期首脳人事への影響は避けられない」といさめられていたという。日銀生え抜きの中曽宏理事(当時)の副総裁の目は消え、「次の次」の人事にも尾を引くというわけだ。
白川氏は翌月、安倍政権が求めていた2%の物価上昇率目標の導入を表明。政府は首脳人事案の副総裁候補に中曽理事を入れた。
3月上旬の黒田氏らの衆院の所信聴取はまるで、政治の要請にどれだけ忠実に応えるかを問う場のようで、「何でもやる」といった勇ましい所信表明が相次いだ。
ところで、この数日前に米上院で行われたバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の公聴会で政治家が追及したのは、日本とは逆に、量的緩和が経済に与える弊害だった。すでに米国では金融市場の一部にバブル再燃の懸念が出ているのだ。
シェルビー議員(アラバマ州・共和党)が「3兆ドル(約281兆7600億円)もの量的緩和(資産買い取り)をやって大丈夫か」と質問すると、議長は明確に答えず「FRBがこんなに資産を持つのは初めてだが、他国の中銀だってやっている。たとえば日銀だ」と矛先をかわした。
先行きを保証することはできないが、大規模緩和が世界の趨勢(すうせい)だ、といわんばかりの答弁だ。
議長は3月21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で「金融政策は切れ味の悪い鈍器のようなものだ」と語り、早期に引き締め姿勢に転じるリスクを強調した。
議長が日銀を反面教師に緩和政策を進めているのは有名だが、この発言が、引き締めを急いでバブルを崩壊させたり、回復の芽を摘んだりした過去の日銀の過ちを引き合いに、自らの緩和政策を正当化したものであるのは明らかだ。
ただFRBにも、グリーンスパン前議長時代に住宅バブルを見抜けず、後のリーマン・ショックを招いたという苦い過去がある。このように、日米ともに金融の専門家集団であるはずの中銀はあまりにも無力だ。
これに加え、現在日米の中銀が供給し続けている資金は未曽有の規模。将来的に物価が急上昇に転じるなど経済が変調を来しても過去の経験則は生かすべくもない。アベノミクスは政治的に大成功を収めつつあるが、金融政策に関する限り、先行きを楽観しすぎるのは禁物だ。(編集委員 佐藤健二)