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中国製造業“人海戦術”に限界 労働力不足と賃金高騰直撃、自動化へ転換
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さまざまな製造業が、労働力不足や賃金高騰による大幅なコストアップに直面している中国で、生産工程の省力化装置や産業ロボットなど自動化ビジネスが注目を集め始めている。
「中国の工場でこれまで従業員30人の目視に頼ってきた電子部品の外観検査工程を、これでそっくり置き換えられる」
大阪市に本社を置く中堅機械メーカー、ヤマトの永田公二会長は、農村が広がる安徽省舒城(じょじょう)県で6年前に設立した自社工場で、日系電子メーカー向けに近く出荷する最新の省力化装置をみせながら、こう話した。
この外観検査機の場合、装置の価格は約125万元(約2000万円)。一方、30人の人件費は社会保障費も含め、合計約150万元。1年で元がとれる計算だ。「ここ1、2年で人件費が製造現場の自動化装置の価格を上回り始めており、その開きは加速度的に広がっている」という。しかも沿岸部では、農村からの出稼ぎ労働者(農民工)が集まりにくくなっている。
このため同社では「(反日デモが起きた)昨年秋は低迷した装置の受注も、今年4~6月では昨年同期に比べ2倍のペースで伸びている」という。
日系など外資系を中心に、対中進出した製造業の場合、資材の輸入や製品の輸出に便利な沿岸部の工場を自動化するか、まだしも労働力が確保しやすい内陸部に工場ごと移転するか、あるいは東南アジアなどに引っ越すか、選択を迫られている。工場移転のコストを考えれば、まずは生産の省力化と自動化が最優先の課題となる。
電機や機械分野では小さな部品の分別、外観検査や不良品識別、衣料品や繊維分野では縫製や検品など、かつては人海戦術が最も力を発揮し、中国を「世界の工場」に押し上げた原動力の工程が、いまでは逆に、対中進出した製造業の成長のネックにもなっている。いかに工場を自動化するかが、13億人という世界最大の人口を抱える中国で製造業の生き残りの鍵になったのも、実に皮肉な話だ。
中国のエコノミストは「労働市場が変化する中国で進む産業革命の姿だ」と話した。
日本や韓国、台湾など、製造業が成長する過程で直面した労働力や賃金の問題は、13億人の人口を抱える中国でも避けては通れない。
中国における生産年齢人口(15~59歳)は2010年にピークを迎え、減少に転じた。背景には1980年代からの「一人っ子政策」がある。
労働力の需給逼迫(ひっぱく)感は労賃高騰に直結する。中国に31ある省クラスの地方行政区に、経済特区として農民工を多数受け入れている広東省深セン市を加えた32地区のうち、18地区までが今年1月からの約半年で法定の最低賃金を引き上げたという。
平均アップ率は約14%に達する。国内総生産(GDP)成長率が8%を切り、輸出や消費も伸び悩む経済環境の下、企業にとっては人件費コストばかり上昇する厳しい局面となる。
中国の工場では今後、産業用ロボット導入も進みそうだ。国際ロボット連盟(IFR)によると、11年の中国での産業用ロボット出荷台数は前年比5割増の約2万3000台。景気減速下でも自動化ニーズは強く、12年以後も需要増が続いている。
そうした中で、安川電機は6月、江蘇省常州市に産業用ロボット工場を開設した。自動車工場などで使う溶接ロボットを2年後に月1000台生産する。日系ロボットメーカーが中国に工場を置くのは初めてという。
米アップル製品などの受託製造で急成長した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が中国で展開している生産子会社、富士康科技(フォックスコン)は、14年までに塗装や溶接、組み立て作業などに100万台の産業用ロボットを導入する計画だ。
中国に100万人もの従業員を抱える富士康だが、社会問題ともなった従業員の連続自殺や不審死で労働力の確保が難しくなり、これに人件費高騰が追い打ちをかけた背景がある。
中国で製造業の人海戦術は転換の時にきた。ここで日本企業の技術力が試される。(安徽省舒城 河崎真澄)