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仏議会がアマゾン狙い撃ち 「割引&無料宅配」を禁じた“真の理由”

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

仏議会がアマゾン狙い撃ち 「割引&無料宅配」を禁じた“真の理由”

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 さて、今回、本コラムでご紹介するエンターテインメントは、昨年4月の“ハリポタ電子版登場”以来、久々となる出版業界ネタです。

 米ネット通販大手アマゾンといえば、1994年、現CEOのジェフ・べゾス氏が、米ワシントン州ベルビューの自宅ガレージでネット書店をオープンさせたのがはじまりなのですが、その後、全世界でぐんぐん業績を伸ばし、いまや書籍だけでなく、CDやDVD、食料品や雑貨までクリックひとつで自宅に届けてくれる便利なサービスとして日本でもすっかり定着しています。

 しかしその一方、アマゾンのせいで街の本屋さんが大変なことになっているということは説明するまでもないでしょう。そして、そんなアマゾンを放っておいては街の本屋さん、ひいては出版文化そのものが大変なことになると立ち上がった国が出てきました。フランスです。

 10月3日付フランス通信(AFP)や英紙ガーディアン電子版、7日付ロイター通信など欧米メディアが一斉に報じていますが、フランス議会の下院は10月3日、アマゾンを中心としたネット書店業者に対し、書籍を割引販売して、無料配達するというサービスを禁止する法案を全会一致で可決したのです。

 与党である社会党(中道左派)の後押しで可決したのですが、今後、上院で可決されるのは確実で、年内にはこの新法が施行される見込みといいます。

 フランスでは1981年施行の「ラング法」によって、書籍に関しては、活字文化や街の本屋さんを守る意味などから、商品供給元が販売店に対し、販売価格を指定して、それを守らせるという「再販制度」を認めるとともに、販売時の割引率も最大5%に制限しています。

 ところがフランスの議会報告書によると、国内の全書籍の売り上げに占めるネット通販の割合は、2003年は3・2%だったのに、2011年には13・1%、昨年は17%と年々急増。その一方、全書籍の売り上げは昨年、対前年比で4・5%もダウンしていました。

 この数字から明らかなように、街の本屋さんの売り上げがネット書店によってどんどん圧迫されているのです。しかしそれも当然でしょう。ネット書店は定価の5%引き販売は当たり前。それに加えて送料まで無料なのですから、そちらに流れる消費者を止めるのは極めて困難です。

 ちなみにフランスの人口は約6500万人ですが、現在、街の本屋さんは2000店~2500店。人口約6200万人のイギリスが1000店であることを考えると、人口比で見れば他国に比べてまだまだ多い方だといいます。

 それでもネット書籍の台頭に多くの人々が危機感を抱いていたようです。法案を提出した最大野党・国民運動連合(UMP)のクリスチャン・ケルト下院議員は欧米メディアに「この法案はわが国の文化遺産の一部である。オンライン販売される書籍の販売価格を引き上げるための措置は、オンラインで文化的作品を購入しようとする人々を抑制するだろう」と述べ「書籍市場で利益を上げているのはネット書店だけで、投資利益率の非常に低い個人経営の書店は、生き残りが難しくなっている」と怒りました。

 しかし、当然ながらこの措置にもっと怒っているのがアマゾンです。現地メディアによると、フランス国内でネットによる書籍の5%引き販売と送料無料サービスを組み合わせているのは、アマゾンと、自国の家電量販店チェーン、フナックだけ。つまり今回の法案、完全にアマゾンを狙い撃ちしたものだからです。

 アマゾン側は声明で「書籍の価格をつり上げようとするいかなる措置も、フランス国民の消費力を低下させ、ネット通販の利用者に対する差別を生み出す結果にしかならない」と強く批判しました。

 しかし今回、フランスが敢行したアマゾンの狙い撃ち、どうやら街の本屋さんを守ることだけが目的ではないようです。

 複数の欧米メディアが指摘していますが、フランスを初めとする欧州連合(EU)加盟各国では、アマゾンやアップル、グーグルといった米の巨大ネット企業の当地でのビジネス拡大を恐れる声が日増しに高まっています。

 さらに米のネット大手がEU各国を租税回避に利用する例も増えています。ネット企業ではありませんが、昨年10月、米コーヒーチェーン大手、スターバックスによるこうした露骨な租税回避策が明るみに出て、世界中で非難が巻き起こりました。

 スタバは1998年に英国に進出し、以来、当地で大もうけしたにも関わらず、課税対象となる利益が発生した年はたった1年だけ。おまけに支払った法人税もわずか860万ポンド(約13億円)だったのです。

 どういうからくりかと言いますと、英国以外の低税率の国をうまく使い、コーヒー豆をスイスの関連法人から割高に仕入れるなどして英法人の利益を圧縮していたのです。また、同じような方法で米グーグルはアイルランド、アマゾンはルクセンブルクをそれぞれ経由して、英国での納税額を減らしていました…。

 こうした動きにフランスは怒り心頭です。9月19日付ロイター通信などによると、フランス政府は、今月末に当地で開かれるEU首脳会議(欧州理事会)で、米国の大手ネット企業を対象にした課税制度を創設し、そうした企業が欧州市場で挙げる利益にきっちり課税するよう欧州委員会に要請する考えを示しました。

 今回のフランスによるアマゾン狙い撃ちも、こうした背景を理解すれば、その“真意”が浮き彫りになるというものですね。

 そして、フランスによる“アマゾン叩き”はまだまだ続きます。10月7日付AFPなどが伝えていますが、アマゾンが英国でフォアグラの通販を禁止したことにフランス政府が激怒しているというのです。

 ご存じのように、フォアグラとは脂肪肝状態になったガチョウやカモの肝臓のことですが、強制的に餌を与え続け、肝臓を肥大化させて作るため、動物愛護団体などが「動物虐待に当たる」と指摘。これを受け生産や販売を禁止する動きが世界中に拡大しています。

 英国のアマゾンもこうした動きを受け、象牙や鯨肉、フカヒレなど計100品目とともに販売を禁止したのです。ところがフランスは世界最大のフォアグラの生産・消費国。毎年16000トン(世界の販売量の約3分の2!)を生産し、全世界で生産されるフォアグラの75%がフランス国内で消費されます。関連事業で働く人々は約10万人といわれています。

 そのため、フランスのギョーム・ギャロ農務大臣は「アマゾンの決定は遺憾である」と非難。さらに「私は動物の幸福を尊重しながら、長年にわたり素晴らしい製品の品質維持に努めるわが国の(フォアグラ)生産者の努力を示したい」と訴えました。

 とはいえ、現在、イギリスと、EU加盟28国中23国がフォアグラの生産のもとになる「強制給餌」を法律で禁止している状況下では、フランスの主張にはかなり無理があります。フランスの動物愛護団体の代表は「フランスは動物虐待(の残虐性)について目を見開け」と主張しています。

 フランスVSアマゾン、というか、欧州VS米巨大ネット企業という闘いは今後、さらに激しさを増しそうです。(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部どを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。

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