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ジャッキー・チェンの苦悩 中国共産党を擁護、死亡説や引退説も出たが…
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2011年10月、映画「1911」の宣伝で来日したジャッキー・チェン(中)が日本語吹き替え版の声優を務めた江角マキコ(右)と中川翔子(左)とイベントに登場。会場を沸かせたが、当人はいろいろと悩みが尽きぬようで… ぼちぼちアカデミー賞レースの時期に突入するので、毎度のことながら米国のエンターテインメント系ニュースをつらつらチェックしていたら、面白い記事にぶつかりました。
今年1月5日付の本コラムでご紹介しましたが、昨年暮れ、母国・香港での中国民主化運動を弾圧し続ける政府の肩を持つような発言で世界的に非難を浴びた国際的アクション・スター、ジャッキー・チェン(59)。
そんな彼の最新作で、日本や中国では昨年暮れに公開されたアクション大作「ライジング・ドラゴン(原題=チャイニーズ・ゾディアック)」が、米国でも10月18日から公開されました。
それを受けた翌19日付米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)に彼のインタビューが掲載されていたのですが、その内容が、分かる人には分かるスターの悲哀のようなものがにじむなかなかに興味深いものだったので、その内容を中心に、昨今の彼の動向を踏まえつつ、こってりご紹介させていただくことにしました。
まずは、彼の歩みを振り返ってみましょう。1954年4月、香港随一の高級住宅街で夜景の名所でも知られるビクトリア・ピークで生まれ育ちました。7歳から約10年間、数々のカンフー・スターらを輩出した名門・中国戯劇学院で京劇や中国武術を学び、映画のエキストラやスタントマンを務めました。あのブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」(72年)や「燃えよドラゴン」(73年)でエキストラを務めていたのは有名な話です。
その後、両親が当時住んでいた豪州に移り、左官業やコックなど職を転々としましたが、76年「ドラゴン怒りの鉄拳」の監督だったロー・ウェイに誘われ香港に戻り、俳優の道に進みました。
しかし、なかなか芽が出なかったため、当時主流だったシリアス一辺倒ではなく、自分のキャラを活かしつつ、コミカルな動きやお笑いの要素を交えた新しいカンフー作品をめざし、方向性を変更しました。
そうして発表した「ドランクモンキー酔拳」(78年)は、酔えば酔うほど強くなるという伝説の酔八仙拳をマスターしたチェン扮(ふん)する主人公が宿敵を倒すという物語ですが、酒の入ったひょうたん片手に、文字通り酔っ払いのようにふらつきながらも、ヒップ・ホップ・ダンスのようにリズミカルで切れ味鋭いカンフー技を繰り出すチェンに、日本でも多くの映画ファンが熱狂しました。
80年代に入ると監督・主演などをマルチに兼務しつつ、さらに凄まじいアクションを披露。「プロジェクトA」(84年)と「ポリス・ストーリー/香港国際警察」(85年)でアジア映画界のトップスターとなり、日本でも数々のテレビCMに出演する人気を獲得しました。
90年代には主演作「レッド・ブロンクス」(95年)が全米興行収入ランキングで初登場1位を記録したのを機に、ハリウッドに本格進出。「ラッシュアワー」のシリーズ3作(98年、2001年、07年)の大ヒットでアカデミー賞のプレゼンターも務めるなど、ハリウッド・スターの仲間入りを果たしました。
とはいえ2010年以降は、80年代の大ヒット空手映画シリーズのリメーク「ベスト・キッド」(10年)や、辛亥革命100周年、自身の出演作100本目となる「1911」(11年)などを発表するも、やや失速気味。
そのうえ、前述した昨年暮れの舌禍事件でイメージを落としたことに加え、今年3月には最新作である「ライジング・ドラゴン」が「引退ではないが、自身が出演する最後のアクション大作になる」と明言。アクション大作からの“卒業”を宣言しました。
ちょっと分かりにくいですが、この発言“映画でアクション・シーンを演じることを止めるという意味ではないが、さすがに本作や『プロジェクトA』みたいなアクション大作は無理ですわ”という意味らしいです。
そのせいかどうかは分かりませんが、今年7月26日付米経済系ニュースサイト、インターナショナル・ビジネス・タイムズ(豪州電子版)などによると、6月以降、映画のスタントシーンの撮影中、建物の12階から転落死しただとか、欧州オーストリアのハーネンカム山脈でスタントシーンの撮影中、高さ50フィート(15メートル)の岩場から滑落して死亡したといった悪質なデマが交流サイトのツイッターやフェイスブックで拡散。本人が「本当に死んだら、ちゃんと公式発表が出るから!」と茶化して否定する騒ぎとなりました。
そんな中でのロサンゼルス・タイムズ紙とのインタビューなのですが、いきなり書き出しがこうです。
「ジャッキー・チェンは死んでもいないし、引退もしていない」
「『本当にたくさんの噂が出たけど、そんなのには慣れてるしね』。59歳の俳優兼監督は、ネット上を賑わせた自身の死に関するつぶやきや誤報について振り返り、こう述べた。『心配はいらない。(僕が)死ぬ前には、ちゃんとお知らせしますよ』」。
「チャンは(映画での)アクションシーンを減らしているかもしれないが、この50年間に100本以上の作品に主演した彼の歩みは止められないようだ」…。
こんな感じの、応援しているのか皮肉なのか良く分からない前文に続いてインタビューのやりとりが始まるのですが「今回の最新作で演じたアクションシーン(スタント)の中で、最も困難だったことは?」との問いにチェンはこう答えます。
「(自分の)年齢だね。若い頃のようには行かなかったよ。でも自分なりのやり方は続けている。以前のジャッキー・チェンのアクションはハリウッドの(古典的な)アクション(のスタイル)だった。しかし今のハリウッドのアクションシーンはすべて、特殊効果やCGを組み合わせている。でも僕にはそんなことは、できない。なぜなら、観客は僕がスーパーマンやバットマンみたいに空を飛ぶ場面なんて見たくないと思ってるよ。彼らは僕のリアルなアクションを求めている。それに応えるのが最も難しいことだね」
さらに「今のようなアクションシーンをあといつまで演じられると思いますか?」との厳しい問いにもチェンは「分からないよ。40歳の時なら『あと5年。そしたら引退』って答えただろうね。45歳の時でも『あと5年、そしたら引退』、50歳の時でも『あと5年、そしたら引退』…。つまりは、できなくなるまでやり続けるってことだよ」と真面目に答えています。
そしてイヤラシイ質問は続きます。「『アイアンマン』や『アベンジャーズ』のようなスーパーヒーローが活躍する作品への出演を考えたことはありますか?」
彼が59歳、それもアジア系俳優と知っていて聞くか?と思いますが、彼も負けてはいません。
「もちろん。どうかすべての監督さん、(特に)ジェームズ・キャメロン監督、僕を主演に使ってくれよ!」
そして「この手の映画は大好きさ。ブルーの背景をバックに、たくさんのワイヤで吊(つる)されてあちこち飛び回るんだ。簡単過ぎるよ。そして監督たちは僕に対して(大嫌いだった主演作)『ラッシュアワー』の時のように『君は君自身のアクションを演じるべきだが、ドラマやお笑い、恋愛ドラマでビーチで歌い、スローモーションで走り、キスシーンを披露する方がむしろいいんじゃないか』と考えている。でもね、そんな僕を映画館で見るためにチケットを買う人はいないと思うよ」と痛烈にやり返しています。
無論、シリアスなやりとりも。「あなたはハリウッドでも成功した数少ない中国のスターです。双方での成功はなぜ困難なのでしょう?」との問いには「僕は正しい方法を選ぶからね。僕の作品は、たとえせりふがなくても筋書きがわかるよね。アクションは豊富だが、暴力シーンも下品なジョークも汚い台詞(せりふ)もない。香港や中国だけでなく全世界で受け入れられるものなんだ。これまで、僕は銀行のような存在だった。ファンたちはジャッキー・チェン銀行に集い、決して僕の元を去ったりしないんだ」
しかし、またもや、やらかした問題発言については苦しい言い訳に終始しました。
「あなた、今年の初め、香港のテレビのトークショーで、米国は世界で最も腐敗している国だと言いましたよね?」
「言ったよ。世界は腐敗(corrupt)に満ちている。そして最も腐敗しているのが米国だ。過去を振り返ってみろよ。(禁酒法時代にギャングが大暴れした)シカゴとか。しかし今は問題ない。“corrrrrrrrrrupt”みたいなことはない。僕の英語はそんなに上手くないから、ホントに通訳が必要なんだ。みんなが僕の発言の真意を理解してくれるよう望むよ」
しかし、終盤のやりとりに彼の真の苦悩が見て取れました。
「既に100本以上の作品を作りました。最も好きな作品は?」
「多分『ラッシュアワー』だろうね。多くの人が楽しんで観てくれて、製作費もたくさん使った。しかしあれは僕が作りたかった作品ではなかった。そして僕は自分が作りたい作品がまだ見つからないんだ。米国では僕にアクションものばかりを求めるけど、なぜ僕が『ベスト・キッド』や『タキシード』(2002年)に出演したと思う?。観客に、僕は単なるアクションスターではなく、俳優であると知ってほしかったからなんだ。なぜなら、アクションスターの寿命は短いからね」
「あなたはかつて、アジアのロバート・デ・ニーロになりたいと言っていましたね」
「デ・ニーロやダスティン・ホフマンは、どんな役柄でもこなす。あんな風になりたいよ」
日本のメディアでは、お笑い芸人から政治家まで、ダラダラ長いだけの提灯(ちょうちん)ゴマすりインタビューしかお目にかかりませんが、さすがハリウッドのお膝元のロサンゼルス・タイムズ。世界的スターにも全く容赦なく、居合抜きで相手をぶった切るような切れ味鋭いインタビューで楽しませてくれます。
おまけにこのインタビュー、ロスにいる記者と、香港にいるチェンがスカイプか何かを使った“ビデオ・チャット”で行ったといいます。いやはや大変な時代です。
このインタビューを読めば、チェンの苦悩ぶりが手に取るように分かります。舌禍事件も苦悩からくるイライラが原因なのでしょう。確かに岐路に立つチェンですが、個人的には、ミック・ジャガー70歳、ボブ・ディラン72歳、ポール・マッカートニー71歳ですから、59歳の彼ならまだまだ路線変更は可能だと思います。記者は「ドランクモンキー酔拳」以来のファンですから、応援していますよ!。(岡田敏一)