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3Dプリンター、1兆円産業へ 製造革命、多品種少量も可能

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3Dプリンター、1兆円産業へ 製造革命、多品種少量も可能

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3Dプリンター  3次元(3D)のデータを基に複雑な立体物を簡単に作製できる「3Dプリンター」が、ものづくりを変えようとしている。欧米では企業や個人の利用が一気に進んでおり、日本でも安倍晋三政権が、3Dプリンターの普及・拡大を、成長戦略の柱の一つと位置づけるなど推進への機運も高まる。製造業のあり方を一変する「魔法の箱」ともいわれる3Dプリンターの可能性を探る。

 3週間を3日に短縮

 「3週間かかっていた工程を3日に短縮できた」

 自動車部品に使う鋳物の製造を手掛ける中小企業「コイワイ」(神奈川県小田原市)の小岩井豊己社長は、本社内に置かれた業務用の3Dプリンターを前に笑顔を見せる。

 鋳物は、溶けた金属を砂で作った型枠(砂型)に流し込み固めて作る。砂型を作るには、鋳物の原型や中空部分を埋める中子(なかご)など、複数の部材を組み合わせる必要があったが、同社は砂を原材料に使う3Dプリンターで、自動車部品など複雑な形状の砂型を作製し、工期の短縮や機能向上を図った。従来3週間かかった試作工程が、3日程度に短縮できるケースもあったという。

 その成果は数字に表れた。スピードを重視するメーカーの支持を得て、2007年の3Dプリンター導入前に年間60社程度だった取引先は、12年に110社程度とほぼ倍増。自動車が中心だった取引先も、産業機械や電力、航空・宇宙、建機など大きく広がった。

 現在、同社は粉体金属を材料に使うタイプも含め計6台の3Dプリンターを導入し、事業の拡大を図る。小岩井社長は「今後も新たな可能性を試したい」と力を込める。

 複雑な構造も再現

 3Dプリンターの原理は、立体物を薄く輪切りにした設計データを基に、断面を何層も積み重ねて立体物に仕上げる仕組みだ。インクの代わりに砂や金属、樹脂などの材料を使い、必要な部分をレーザーや紫外線、加熱などで固めることで、従来は金型や工作機械が必要だった複雑な構造物も、紙に印刷するような手軽さで再現できる。

 切削工具では作れない複雑な構造物が一体形成できるほか、使う材料を変えることで、異なる金属が一体になった新しい機能を持つ製品も作れる。また、10種類の製品を1個ずつ作るといった多品種・少量生産に強みを持つ。

 ものづくりの競争力は、大量生産による低コスト化か、独自の職人の技で高付加価値な製品を作るかが従来、中心だった。前者は設備投資や需要が、後者は熟練の技術がそれぞれネックとなり、製造業の新規参入を難しくしてきた。

 だが、3Dプリンターは、デジタル技術でものづくりのハードルを下げた。経済産業省は3Dプリンターが「ものづくりの変革を加速する可能性を持っている」と指摘する。

 官民で国産機推進

 3Dプリンターの世界市場は急激に伸びる見通しだ。米調査会社ウォーラーズ・アソシエイツは、2021年の3Dプリンター世界市場規模が108億ドル(約1兆1200億円)と、12年に比べて約5倍に拡大すると予測する。成長性に目を付け、各国政府も普及促進にかじを切った。

 先行する米国では、オバマ大統領が3Dプリンターを活用した産業政策の推進を表明。技術革新に向けた専門組織を立ち上げたほか、全国の学校への設置も進めている。同様にドイツや英国、中国も技術開発拠点の設立などを積極化させている。

 日本でも3Dプリンターの利用は広がり始めている。だが、肝心の3Dプリンターそのものは、ほぼ欧米メーカーの独占状態だ。

 こうした中で経産省は成長戦略の目玉として、“国産3Dプリンター”の開発に官民で乗り出した。

 経産省は技術開発支援事業として14年度予算の概算要求で45億円を新規計上したほか、有識者による研究会も10月に発足し、日本経済の底上げにつなげる考えだ。

 日本は“もろ刃の剣”

 ただ、高い生産・加工技術で他国との差別化を図ってきた日本の製造業にとって、3Dプリンターは“もろ刃の剣”になる懸念もある。特に、日本は金型のような基盤技術の強みで、他国の製造業に対し優位性を維持してきた。

 だが、中国などアジアの新興企業が3Dプリンターを導入すれば、金型などが不要になり、日本のアドバンテージが失われる懸念がある。また、アイデアに富んだ個人の製造業参入が容易になれば、既存の中小企業などの仕事が奪われる恐れもある。

 野村総合研究所の寺田知太・上級コンサルタントは「安くて早いだけが売りの製造業は淘汰(とうた)が進む。デザインなど付加価値を付けることが重要で、3Dプリンターのブームを機に日本のものづくりの利点を見つめ直す必要がある」と指摘した。

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