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武器輸出「野田三原則」の収穫 高い技術に協力要請相次ぐ
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防衛装備品をめぐる日本と外国政府の協議案件
政府・与党は近く、武器輸出三原則に代わる新しいルールを策定し、防衛装備品の国際共同開発が行える環境を整備する計画だ。これを機に三原則の下で鎖国状態にあった日本の防衛産業も、本格的な国際競争の波に洗われることになる。
民生分野で培った高い技術力を背景に成長産業としての道を歩むのか、それとも欧米の巨大防衛メーカーにのみ込まれてしまうのか。防衛産業は曲がり角に立たされている。
「日英が防衛装備品を共同調達すれば安く良い物が手に入る。それに、英国には米国製より優れた装備品もある」
昨年10月、東京都内で行われた日英の防衛協力についてのイベント「日英安全保障協力会議」に出席した英王室のアンドルー王子は講演で、対米一辺倒の姿勢を見直し、英国との関係を強化するよう日本に迫った。
王子の発言には英政府や英防衛産業の期待が込められている。このイベントの英国側主催者である王立防衛安全保障研究所(RUSI)のスポンサーの一社が防衛世界3位の英BAEシステムズ。関係者は「BAE側には(欧米製最新戦闘機の操縦訓練ができる)練習機『BAeホーク』の派生型を技術力のある日本企業と共同開発したい意向があるようだ」と明かす。
日本にラブコールを送っているのは英国だけではない。昨年5月、トルコを訪問した安倍晋三首相は安全保障やエネルギー分野での協力で合意。その後、トルコ側から戦車用エンジンの共同開発を求められた。
同国のエルドアン首相が来日し今月7日に行われる首脳会談でも議題に上り、共同開発の検討が本格化する見通しだ。また、インドからは新明和工業が開発した海上自衛隊の海上救難艇「US2」を購入したいとの要請があり、今月の安倍首相の訪印で合意を目指すとみられる。
こうした変化は「積極的平和主義」を掲げ、安全保障戦略の強化に積極的な安倍政権の姿勢が海外で認知されているためとみられがちだが、契機になったのは、2011年12月に野田政権下で行われた武器輸出三原則の見直しだ。平和に貢献する国際共同開発や人道目的の輸出を包括的に容認する内容で、これが「武器輸出市場に日本が参入するというメッセージになった」(政府関係者)。
日本の産業界はこの『野田三原則』で国際共同開発の可能性が広がったことを「画期的であり、高く評価する」(米倉弘昌経団連会長)と歓迎した。
期待通り、海外から共同開発などの打診が相次いで舞い込んだものの、野田三原則では実際に国際共同開発や輸出を自由に行えない問題があることが分かった。「蓋を開けてみると、ほとんどの案件が実現不可能。何とか合意の枠組みが固まったのは英国との防護服の共同開発だけ」(関係者)だった。
航空自衛隊が次期主力戦闘機に導入するF35でさえ、昨年になり例外とする措置を講じなければならなかったほどだ。政府・与党が三原則に代わる新たなルールの策定を迫られているのには、こうした背景がある。
半面、野田三原則には大きな収穫もあった。海外からの協力要請が相次いだことで、政府は「日本の防衛産業が持つ技術力や産業基盤の質に対する評価が国際的にも極めて高いことが分かった」(経済産業省幹部)と、自信を深めている。
日本の技術力を象徴するのが、「製造できるのは世界でわずか10カ国前後」(元自衛隊幹部)とされるハイテク兵器、戦車だ。中でも、三菱重工業が開発した陸上自衛隊の主力戦車「10(ヒトマル)式戦車」は高性能ディーゼルエンジンを搭載。軽量ながら蛇行走行中の不安定な態勢でも強力な主砲の砲身を揺らさず正確な射撃ができ、「間違いなく世界一の戦車」(同)といわれる。
実は、日本に戦車用エンジンの共同開発を持ちかけたトルコは、韓国製の次期主力戦車「K2(ブラックパンサー)」の技術を現代グループから導入し、準国産戦車「アルタイ」の開発を進めていた。
しかし車体に続き導入予定だった韓国製「パワーパック」(変速機を一体化した戦車用エンジン)は多くの欠陥を抱え、再三にわたり実用化が延期されている。韓国メディアによると、K2に搭載できるのは早くても、年末になる見通しだ。トルコは、このままでは国産戦車はいつになっても完成しないと業を煮やし、日本に支援を求めたとみられている。
野田三原則が出る前のことだが、日本には、意外な国からの打診もあった。折に触れ日本の右傾化を批判している韓国だ。同国の防衛産業振興会の代表団が10年2月に訪日して経団連と意見交換。この中で、将来、日本の武器輸出三原則が緩和されれば日本メーカーと協業したいとの意向を表明した。もっとも、「技術を奪われかねないとの警戒感から韓国側の提案を検討する日本企業は皆無だった」(関係者)という。
日本の防衛産業を取り巻く国際環境は今、様変わりしようとしている。(佐藤健二)
【用語解説】武器輸出三原則
1967年の佐藤栄作政権下でインドネシア、ユーゴスラビア向けの日本製ロケット輸出が問題視されたことを機に(1)共産圏(2)国連決議で武器が禁輸されている国(3)国際紛争の当事国-への武器輸出を認めないことを定めた原則。武器の輸出、国際共同開発、防衛企業の買収などを規制している。その後の歴代政権で三原則の枠組みを維持しながら規制の強化や緩和が行われた。安倍政権は三原則の枠組みにとらわれない抜本的見直しを進めている。