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異次元緩和から1年 物価上昇着実も、脱デフレは道半ば
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日銀が世の中に供給するお金の量(マネタリーベース)を2年で2倍に増やす量的・質的金融緩和を導入してから4日で丸1年が経過した。この間、円安株高が進み、消費者物価指数もプラスに転換。「物価は上昇する」という人々の予想に働きかけることを狙った政策は順調な道筋をたどる。ただ足元では経済成長に一服感がみえ、消費者物価の伸びも足踏みが続き、脱デフレは道半ばだ。
「マンション価格は今後も上昇するのか?」。横浜市保土ケ谷区で建設中のマンション「ミソラシア横浜桜ヶ丘」。三菱地所レジデンスのマンションギャラリーを訪れる顧客から、こんな問い合わせが増えている。
同社販売グループの中住卓矢リーダーは、マンション価格の先高感もあり「お客さまの購買意欲は高まっている」と手応えを感じている。同マンションは7月下旬完成予定だが、すでに8割以上が売れているという。
日銀が昨年4月に導入した量的・質的金融緩和は、企業の設備投資や個人消費を刺激することを狙っている。その過程で想定しているのが(1)長期金利を引き下げる(2)銀行貸出を増やす(3)人々の物価上昇予想を高める-の3つの波及経路だ。
特に物価上昇予想に働きかけることは、従来の日銀にはなかった特徴だ。黒田東彦(はるひこ)総裁は3月20日の講演で「15年に及ぶデフレで、『物価が低下する』ことを前提とした体質が定着し景気低迷の長期化につながった」と説明。昨年4月に「2年程度で2%の物価上昇率」との目標を決め、人々の物価予想に強く働きかけることを打ち出した。
物価が将来にわたって上昇していくと予想できれば、手元の現金や預金の価値は相対的に目減りする。このため、できるだけ投資や消費に回そうという心理が働き、景気が刺激される。
また銀行の店頭などで目にする「名目金利」から「予想物価上昇率」を差し引いた「予想実質金利」も低下、住宅や自動車ローンなどの実質的な借り入れコストは下がる。そもそも日本では名目金利を引き下げる余地は乏しい。仮に名目金利の水準が同じでも物価が上昇すれば、今借り入れて購入したほうが有利になる。
日銀が2日発表した「生活意識に関するアンケート調査」では個人の1年後の物価予想(消費税増税の影響を除く)は平均で5.0%と1年前の調査に比べて1ポイント上昇。日銀が初めて集計した企業の物価見通しでも、企業は1年後の物価上昇率を平均で1.5%と予測。日銀の狙い通り、予想物価上昇率は確実に上がっている。
長期金利は、金融緩和導入前(0.55%)と比べ横ばい圏内の0.6%台前半。銀行の貸出残高も2月は前年同月比2.4%増と29カ月連続でプラスとなり、他の2つの波及経路もおおむね機能している。
脱デフレに向け、主な経済指標も改善。金融緩和前に1ドル=93円台だった円相場は103円台まで円安が進み、日経平均株価も1万2000円台から1万5000円台に上昇した。特に2%を目標とする消費者物価指数(生鮮食品を除く)は緩和前の昨年3月は前年同月比0.5%のマイナスだが、2月は1.3%のプラスだ。
誤算は実体経済への波及が一部で鈍いことだ。
完全失業率など雇用環境は改善しつつあるものの、厚生労働省によれば2月の基本給などの所定内給与は前年同月比0.3%減の24万97円と21カ月連続で減少した。3月11日の会見で黒田総裁は「パートが増えていることもあり、所定内給与は伸びてこない」と述べ、今春闘での賃上げに期待感を示したが、物価上昇に賃金アップが追いついていない状況だ。
経済成長率も鈍化。13年10~12月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で0.7%のプラス。4~6月期のプラス4.1%、7~9月期のプラス0.9%と比べ低下した。円安が進んだにもかかわらず「新興国中心に外需が弱めとなった」(黒田総裁)ため輸出が伸び悩んでいる。日銀は13年度の実質GDP成長率を2.7%と見込むが、達成は困難な状況だ。
消費者物価指数も昨年11月に1.2%まで上昇後、円安の一服もあり今年2月まで3カ月連続で1.3%と足踏み状態だ。
4月の消費税増税で駆け込み需要とその反動が予想されるが、日本経済について黒田総裁は「基調的には緩やかな回復を続ける」という姿勢を崩していない。消費税増税に伴う景気の落ち込みを一時的なものにできなければ、2%の物価上昇率の目標は遠のく。就任2年目となる黒田総裁の手腕が問われる。
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2013年 14年
実質国内総生産 4.5% 0.7%
(GDP、前期比)
日経平均株価 1万2362円20銭 1万5063円77銭
円相場(対ドル) 93円43銭 103円90銭
長期金利 0.555% 0.640%
(新発10年物国債利回り)
消費者物価指数 ▲0.5% 1.3%
(生鮮食品除く、前年同月比)
基本給などの所定内給与 ▲0.9% ▲0.3%
(前年同月比)
完全失業率 4.1% 3.6%
マネタリーベース 146兆410億円 219兆8855億円
銀行貸出(前年同月比) 1.9% 2.4%
※GDPは季節調整済み年率換算、2013年は1~3月期、14年は13年10~12月期。日経平均株価、円相場、長期金利は4月4日の終値。消費者物価指数、所定内給与、マネタリーベース、銀行貸出は3月。▲はマイナス