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【女性“活用”の現実】(下)今の日本の限界 長時間労働、ゆるキャリ…抜本的な見直し必要

ニュースカテゴリ:政策・市況の国内

【女性“活用”の現実】(下)今の日本の限界 長時間労働、ゆるキャリ…抜本的な見直し必要

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【女性“活用”の現実】(下)

 「女性だからという理由で管理職登用や評価することは一切ないので回答が難しい」。企業が女性活用を促進する際に必要なことは何か-。この質問に対し女性の割合が課長級以上で33.6%、役員級職では47%と日本では突出するプロクター&ギャンブル(P&G)ジャパンの広報担当者はこう答えた。

 働きやすい環境整備

 2020年までに指導的立場に占める女性比率30%目標に向け、国は女性登用政策に力を入れ企業も活用策を掲げる。しかし、すでに30%を達成している企業は“女性活用”とは別のアプローチをしている。

 P&Gは1カ月の出退勤時刻を自分で決めるフレックスタイム制度と週1回の在宅勤務制度を全社員に認めている。これらは「育児支援ではなく柔軟で働きやすい環境を整える目的」(同社)で導入されたもの。毎週のノー残業デーやノー会議デーも全社的な取り組みだ。

 「女性の活用には長時間労働や労働評価基準の見直しが必要」と柔軟な働き方の導入を勧めるワーク・ライフバランス(東京都港区)社長の小室淑恵氏は訴えてきた。少子高齢社会で、介護や育児など制約を持ちながら働く人は増え続ける。長時間労働が前提の働き方は限界を迎えつつある。

 実際、専業主婦モデルに支えられた高度経済成長期の男性同様の働き方にノーを突きつける声は少なくない。出版社で働く横浜市在住の女性(30)は「上の世代のように仕事命の人ばかりではない」と言う。保育所だけでなくベビーシッターや親に子供を預け、男性と同等に働く先輩の女性社員もいるが、そうなりたくはない。

 ワークライフバランスをめぐる企業の制度整備は、00年代半ばに急速に進んだ。ただ、一部の子育て社員に適用されるだけで、働き方そのものは見直されていない。その状況が新たな問題も生じさせた。大和総研の河口真理子主席研究員は「女性が辞めなくて良い制度は整ったが、家庭を担うのも女性のまま。結果、家庭重視で職場での活躍が期待できない社員を量産した」と指摘する。

 「仕事中心のばりばりでもなく、ずっと時短でゆるくでもない、中間策だってあるのでは」。自身も2人の子供を育ててきたNTTドコモの木村裕香ダイバーシティ推進室長は後輩たちにいう。木村室長は、簡単に「ゆるキャリ」に切り替えてしまうことを「本当にそれでいいの?」と問いかける。時短や残業なしで働く女性社員が、トイレに立つ2分をも惜しんで仕事する様子を見ているからだ。

 4月に第一生命保険で初の女性補佐役(管理職最上位)となった人事部の吉田久子補佐役は「今の女性管理職は男性のワークスタイルに寄った人が多い。それでは後が続かない」とみる。

 残業減も営業益増

 全社的な働き方の見直しが奏功したケースもある。社員の9割がシステムエンジニアという住友商事グループのSCSKは昨年度から午後5時40分の定時退社を徹底。13年度の月の残業時間は前年度比4時間以上減った一方、営業利益は2桁増の見込みだ。長時間労働から「生産性重視」への切り替えが成功。離職率が半減した上、「残業がないなら」と時短勤務を見直し、定時を選ぶ子育て社員が出てきた。

 13年に4人に1人だった65歳以上の比率は35年に3人に1人となるなど少子高齢化は待ったなし。貴重な人材であるはずの女性の専業主婦願望の高まりや管理職を敬遠する実態は、女性を“活用”する取り組みだけでなく、根本的な働き方の変革を待ち望む声の裏返しといえる。

 ■現実と向き合う声に耳傾けよ

 安倍晋三首相が女性活用を経済政策の中核に据えてから約1年。政府の政策や企業の取り組みを取材してきて、気になったのは当の女性たちの冷め方だ。

 子供の発熱で保育所からかかる携帯電話の呼び出しにヒヤヒヤしたり、保育所で夕食を終えて最後の1人になるまで待っている子供を迎えに行くたび後ろめたい気持ちになったり、同期の男性が妻に育児も家事も任せる一方で仕事を選んだ女性は独身だったり-。目の前の「現実」と向き合う女性には、聞こえがよい政策はどこか遠い世界の話に思えるようだ。

 安倍首相の「育児休業3年」の呼びかけは「会社の実態を理解していない」と、すこぶる評判が悪かった。今のままでは、3年休めば復職が困難になるだけだ。政府内では配偶者控除の見直し議論が始まったが、保育所不足解消を含む女性の働く環境整備が伴わないことには、単なる増税になりかねない。政府のかけ声と実態のちぐはぐさに、今の日本の限界を感じる。

 日本女性の活躍は、たんなる目標設定や制度整備より、一種の市場原理によって起こるのではないかと思う。

 国内市場も膨らみ続ける高度経済成長期には、日本製品には価格競争力があり、模倣と改善により均質なものを提供すれば企業は業績が伸びた。そこに多様な人材は必然ではなかった。

 しかし今、日本は経済成長の停滞期に入り、国内市場は縮小の一途をたどる。生産人口は減り、労働力も争奪戦となる。

 「これまでのやり方」で勝てない今、変革が必要なことは多くの企業が分かっている。その一つが多様な人材を生かし、新たな価値を生み出すような働き方への転換だ。この結果として、企業は質の高い労働力を確保でき、女性の活躍も自然のものとなるのではないか。

 政府もこうした時代の要請に応えるには、補助金をばらまいたり、企業トップに呼びかけたりするだけのこれまで通りのやり方を変えるべきだ。まず安倍首相は実際に働くあるいは働きたい一般女性の声に、耳を傾けてほしいと思う。

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