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配偶者控除見直しに不満噴出 戸惑う家庭「実態分かってない」

ニュースカテゴリ:政策・市況の国内

配偶者控除見直しに不満噴出 戸惑う家庭「実態分かってない」

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給与所得者の男女別年収構成比  女性の就業拡大を目指す安倍晋三首相の指示を受け、専業主婦がいる家庭の税負担を軽くしている配偶者控除の見直し論議が本格化している。女性の社会進出を促すことが政府の狙いだが、控除を受けている家庭からは「実態を分かっていない」といった批判や戸惑いの声も上がっている。

 ただ、超少子高齢社会の道を歩んでいる日本の生産年齢人口は約50年後に半減するとの予測もあるだけに、働き手の確保は喫緊の課題。女性の社会での活躍を支えるために真に必要な施策が問われている。

 「安倍さん、早まっているよ」。京都府城陽市に住む3人家族の主婦、藤永真由さん(36)=仮名=は、配偶者控除見直しのニュースを見てつぶやいた。大学卒業後に就職した会社は土日勤務が当たり前で、育児休暇の取得などは論外だった。結婚と同時に退職し、その後は配偶者控除の適用上限内でパートや自宅でのウェブ制作の仕事をしながら、幼稚園に通う4歳の子供を育てている。

 103万円超も稼げない

 配偶者控除は専業主婦が圧倒的に多かった1961年に導入された。主婦の年収が103万円以下の場合、夫の課税所得が38万円減額される。この「103万円の壁」が女性の働く意欲をそいでいると指摘されて久しい。

 もっとも現実的には、子育て中の限られた時間で年収が103万円を超えること自体が容易ではない。「幼稚園は午後2時半に終わり、祖父母が近くにいて子供の世話をしてくれないと正社員はまず無理。都心でないとパートの時給は900円に満たず、103万円以上を得るのは難しい」と藤永さんは言う。

 大阪市に家族を残し、東京に単身で赴任した会社員の男性(36)は「配偶者控除が縮小・廃止されても、主婦は仕事を増やさないのではないか」と疑問を投げかける。男性の妻は出産後、年収103万円以内で働いてきたが「夫が単身赴任の場合だけでなく、残業や休日出勤の多い家庭では、子育てをしながら妻がフルタイムで働くのはとても大変だ」と指摘する。

 配偶者控除の見直しは「男女の活動の選択に中立的な税制、社会保障制度に改めるべきだ」との考えから、過去十数年以上にわたり何度も浮上しては結論が先送りされてきた。

 安倍政権下で再び焦点が当たったのは、労働力不足への強い危機感が背景にある。国立社会保障・人口問題研究所は日本の生産年齢人口(15~64歳)が2060年に10年比でほぼ半減すると推計しており、女性の就労促進の成否は日本の将来を左右しかねない。

 主婦たちが「働きたくない」わけではない。子供の教育費の確保や老後に備え、家計収入を増やしたいという思いは強い。

 「専業主婦ができる仕事は40歳を境に減り、50歳を過ぎるとほとんどなくなる」。富山市在住の三田百合子さん(53)=仮名=は、関西の大学に通う娘と高校生の息子がいる。子供2人の学費と仕送りのため事務系の仕事で再就職先を探しているものの、選択肢が極端に少ない。

 これまでの就職活動では、週3、4回の勤務、1日6時間程度の相場は時給700~800円。収入アップには勤務が比較的長い介護か掃除などの「肉体労働」を選ぶか、ファミレスやコンビニエンスストアで深夜に働くしかない。「大学を出て出産まで会社勤めだった女性には抵抗がある」(三田さん)。知り合いの主婦たちは「それだったら夫の給料を節約し、やりくりする」との結論になったという。

 先延ばしできぬ課題

 日本の共働き家庭の数は1990年代半ばには専業主婦がいる家庭の数を超えた。内閣府の幹部は「世帯によって痛みが生じるのは確かだが、専業主婦に誘導するような制度を残しておける時代ではない」と指摘する。労働力不足で経済力が弱くなれば家計にも跳ね返ってくる。

 配偶者控除は企業の給与体系にも影響を及ぼしている。内閣府の調査で年換算で平均17万4000円にのぼる企業内扶養手当の多くは、103万円の配偶者控除に連動。それによって「103万円の壁」を厚くしている。

 ただ、子育てをしながら共働きできる環境の整備が伴わなければ、制度の見直しは単なる増税になりかねない。保育所の拡充だけでなく、共働き家庭では男性の家事や育児への参加が求められ、企業では長時間労働の見直しや産後も女性が働き続けられる仕組みが欠かせない。

 ニッセイ基礎研究所の松浦民恵主任研究員は「見直し論議を専業主婦と働く女性の対立構造にすべきではない」とした上で、「労働力人口の減少で男性中心の日本型雇用システムは立ち行かなくなりつつあり、税制上の損得ではなく女性の働き方の見直しという観点からも先延ばしは許されない」と指摘する。

 配偶者控除の見直しは、超少子高齢化が進む日本をいかに継続可能な社会にするかといった課題への回答の一つにもなる。痛みも伴う変革を乗り越えるためには、社会全体で取り組む覚悟が欠かせない。(滝川麻衣子)

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