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内外価格差3倍…なぜバターは高いのか 長期間見直されない国家貿易ルール

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内外価格差3倍…なぜバターは高いのか 長期間見直されない国家貿易ルール

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大規模経営で生乳市場の主導権を握るオーストラリアの乳牛 【早坂礼子の経済ウォッチング】バター不足の裏側

 バターは国が特権を与えた組織がほぼ独占的に貿易を行う「国家貿易品目」だ。国が監督するので信用度が高いし、輸入量を一定に抑えて国内の供給量を保つことができる。貿易には為替の変動リスクがつきものだが、調整金や上納金を「手数料」として確実に徴収し、国内の酪農家保護のための「加工原料乳生産者補給金」の一部に使う。

 一方、国を通さないで輸入する場合、バターの値段は極端に高くなる。例えば輸出国で1キロ400円相当のバターを輸入すると、400円にキロあたり一般輸入の関税率29・8%がかかり、さらに国側に985円を払わねばならないので1500円を超す。これが輸入バターの国内向け卸値の基準で、小売価格はもっと上がる。経済産業省の資料によればバターの内外価格差は約3倍という。

 こうしたバターの国家貿易ルールは、長期間見直されていない。日本が世界貿易機関(WTO)で約束した生乳換算で年13万7000トンの輸入量は条約が発効した1995年度から約20年間不変だ。輸入関税も2001年のWTOドーハ・ラウンドの関税引き下げ交渉が決裂したため、2000年度の税率が15年以上も続いている。

 TPP交渉の例外品目

 インドや中国など新興国の発言力が増しており、以前のようにすべての交渉参加国が一定の合意を得ることは難しい。ドーハ・ラウンドの決裂を受け、世界の貿易交渉は北米や欧州など地域間で行うのが主流になっている。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉もそのひとつだ。

 このTPP交渉で日本は、バターなど乳製品をコメや小麦とともに関税撤廃の例外5品目に挙げている。関税を撤廃してバターの輸入を自由化すれば安い外国産が入って市場が活性化するとの見方がある一方で、慎重論も根強い。

 ひとつはバターを取り巻く国際環境だ。バターの国際価格は2008年に1トンあたり約3500ドルだったが、2014年3月には約4700ドルに高騰し、同年10月には再び約2500ドルに下落した。バター輸入を担当する農畜産業振興機構・畜産需給部の石橋隆部長は「ここ数年、トンあたり6000ドルから2500ドルの間で乱高下を繰り返している」という。

 人口が多く消費市場も大きい中国などの新興国では、経済成長とともに食生活の多様化が進みバターの需要が増えている。穀物などに比べてバターの世界貿易量はもともと小さい。このため、中国などの消費国が買いに入れば暴騰するし、豪州などの供給国が干ばつで減産になっても暴騰する。

 日本の業者が買い負ける事態も珍しくない。生産者団体の中央酪農会議・業務部の寺田繁部長は「世界のバターの生産量は消費量に追いついていない」と話し、自由化したとしても必要なときにいつでも必要量を輸入できるのだろうか、と懸念を示す。

 国内の酪農家をどうするという問題もある。欧米や豪州は「輸出」を調整弁にしている。生乳が余ったら脱脂粉乳やバターに加工して海外向けに輸出し、足りなくなったら輸出を減らす。だが農水省生産局は「日本の乳製品は欧米ブランドのような競争力がない。譲歩したら国内がガタガタになってしまう。現行措置がベスト」と強調する。

 酪農乳業関係者で構成する一般社団法人・Jミルクは2015年度の生乳・牛乳製品の需給見通しを「生乳生産量はほぼ前年並みだが、バターは国内生産だけでは需要量を下回る状況が続く」と予測している。

 酪農家や生乳生産量が次第に減っているなかで、生乳が余ればバターに回し、足りなくなくなると国が輸入して関税分がバターの小売価格に上乗せされていく現行制度。このしくみが変わらない限り、バターの需給は不足と過剰の綱渡りを続けるだろう。

 

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