――なるほど。
加藤氏: 2019年1月に、弊社のビジネスモデルとシステムをあわせて特許を取得しました。これまでは相見積もりを取って価格交渉をして、発注するまでに2~3週間かかっていたため、働き方はガラリと変わったと思います。現在、サプライパートナーは 3カ月ほど前に「産業機械」分野にフォーカスしようと方針を定めたところです。
――産業機械にフォーカスしようと考えたのは、なぜですか?
加藤氏: 事業が軌道に乗ってから1年ほど運営してみて、弊社のバリューが発揮できるのが、一品一様の少量多品種の部品だと確信したからです。事業成長のステップとして、市場全体を見極めるフェーズ、領域を絞って価値提供するフェーズ、それを横展開して大きくするフェーズと区切ると、2番目のステージにこれたかなと思っています。
作業着をまとい町工場へ 現場の温度感知る重要性
――お話を伺っていると、創業から現在まで順調にサービスを拡大している印象を抱きます。しかし、その裏ではさまざまな障壁があったのではないでしょうか。そこで次は、加藤さんがスタートアップを立ち上げてから感じた「壁」をどのように乗り越えてきたかについて、お聞きしたいと思います。
加藤氏: 最初にぶつかったのが「品質の担保」という問題です。弊社のマーケットプレイスはニワトリタマゴで、最初にお客様とサプライパートナーの両者を獲得する必要があります。これを突破するために、まずお客様を集めてから町工場へ掛け合う方法を取ったんですが、当時の私は図面も読めなかったし、加工もくわしくなかった。
ただ、市場の全体像や調達側の課題は把握できている自負があったので、大手のお客様から受注をいただき、図面が読めなくても「できます!」と言って、町工場さんに製作してもらいました。しかし、納期の前日にできあがった部品をチェックしたところ、すべて品質不良だったんです。
自分たちで工具を買ってきて手作業で直して、どうにか納品したものの、サービスを運営するうえで品質の担保が課題になるとわかりました。これはマッチングして終わり、と簡単にはいかないだろうなと。
――そのような経緯があって、納品まで責任を持つフローにされているんですか?
加藤氏: そうですね、1つは「品質の担保」のためです。加えて、1社から受注いただいた部品を複数のサプライパートナーに振り分けることもあり、納品が煩雑になってしまうので、一度弊社に納品して取りまとめる機能もあります。
弊社で検品するからこそ、各サプライパートナーの品質をデータ化できるし、定期的に品質レポートを送って改善を促すなどして、品質の担保もサイエンスしています。
――創業されてから最初の半年ほどは3名体制で運営されていたそうですが、自分たちで手を動かすという体験は、サービスを拡大するうえで活きているように感じました。
加藤氏: 現場感を知らなければ、いいサービスを作ることはできません。とくに製造業という歴史ある分野で、50年、100年と歴史を積み重ねてきた町工場さんに受け入れてもらうには、現場のニーズや彼らのリテラシー、どんな温度感で仕事をしているかを体感しなければ、まず無理です。現場を知ってこそ、CADDiの価値を肌感を持って伝えられると思っています。
弊社の3人目の社員はマッキンゼーを退職し、町工場で3カ月間仕事をしてから、キャディに入社しているほどです。
ステークホルダーの期待値調整で、意思決定を最速に
――事業が軌道に乗ってからは、ハイスピードで成長されていますよね。これは何が要因だと思われますか?
加藤氏: 気合です(笑)。というのは冗談ですが、1つ言えるのはPDCAの早さかもしれません。「今までがこうだから」というしがらみがなく、良くも悪くもこれまでのやり方をバサッと切れる。意思決定を1カ月、1週間単位で変えられるのは強みかもしれません。
――社内外のステークホルダーが増えると、意思決定が思うように進まないというスタートアップの課題を耳にすることがあります。御社では、どのように精査して意思決定をスムーズにされているのでしょうか?
加藤氏: 3名でやっていた頃に比べれば、はるかに大きな組織体(現社員数は55名)になったので伝達コストがかかるのは事実です。しかし一方で、さまざまなところにセンサーが増えて情報が集まり、意思決定がしやすくなるメリットもあります。
ステークホルダーとの関係性構築において私が気をつけているのは、全員への「期待値調整」をすること。特に社員には、きちんとモットーを示したうえで、「事業や組織が明日変わることもありえるし、当然のこととしてやっていく。むしろ、そうでないと会社が衰退する」と再三伝えています。だから、組織体制を急に変えてもアレルギー反応はないです。
投資家の方にも目の前がどうこうではなく、中長期的なバリューを構築できる方とだけご一緒したいと説明しています。期待値調整に手を抜かないことで、自分の気持ち次第で意思決定ができる環境ができているのだと思います。