社会・その他

ひきこもり「1人で死んで」論争で考えた 殺傷事件を機に議論すべきこと (3/3ページ)

 なぜ無防備な子供たちが狙われてしまったのか

 新聞各紙は社説でこの問題をどう扱っているか。

 5月29日付の毎日新聞の社説はその序盤で「状況から無差別殺傷事件の可能性が強い。容疑者は犯行後、自殺したとみられている。無防備な子供たちがなぜ狙われたのか、動機についての警察の捜査が待たれる」と書く。やはり重要なのは、無差別殺傷事件に対する動機の解明である。

 毎日社説は続けて書く。

 「児童8人が男に刺殺された2001年6月の大阪教育大付属池田小の事件を思い起こす。あの時は、校内に入った男が犯行に及んだ」

 「今回は、路上で起きた事件だ。本来安全なはずのスクールバスが狙われたところに、事件の持つ衝撃の大きさがある」

 「スクールバスに乗り込もうと集団でいた子供たちが被害に遭った今回の事件は、これまでの対策が想定していなかったことだ」

 「安倍晋三首相は、小中学生の登下校時の安全確保について対策を講じるよう改めて柴山昌彦文部科学相らに指示した。どう子供たちを守るか、政府レベルでも議論が必要だ」

 想定外の事態は起きる。大切なのは起きてしまった後、どう再発防止に努めるかである。

 この事件は社会的な問題である。警察と検察が動機をしっかりと調べるだけでなく、それらを基に専門家が岩崎容疑者といまの社会との関係について徹底して掘り下げることが必要だろう。

 本当に警備員を配置すれば、事件を防げるのか

 「予兆はなかったのか。なぜこの場所が狙われたのか。容疑者は死亡しているが、警察は動機や、凶行に至る経緯を出来る限り解明すべきだ。捜査結果を何らかの形で公表し、社会全体で教訓をくみ取れるようにしてほしい」

 こう訴えるのは、5月30日付の読売新聞の社説である。なるほど、調査結果は社会全体で共有できるようにすべきだ。

 読売社説は後半で登下校の安全対策について言及する。

 「通学路の安全は度々問題になっている。一昨年、千葉県松戸市で、登校中のベトナム国籍の小学女児が殺害された。昨年5月にも新潟市で下校中の女児が犠牲になり、文部科学省は改めて、学校に通学路の点検を求めていた」

 「登下校の安全対策の基本は、子供を一人にしないことだ。集団登下校やスクールバスの活用は子供を守る手段だった。ところが今回は、バスを待つ集団が襲われた。想定外の事態と言うほかない」

 「子供の集合場所には、教員に加えて警備員を配置するなど、地道な努力を重ねる必要がある」

 スクールバスを待つ児童が標的→想定外→警備員の配置。これが読売社説の論法だが、やみくもに警備を強化しても人員や経費がかかるだけだ。今回の事件の動機をしっかりと解明し、的を絞って対策を講じるべきである。

 動機を解明していくうえで忘れてならないのは、これまで起きた同様な事件と比較し、そこから共通項を探ることだ。海外の事件も参考にしつつ、共通項に応じて、それに見合った現実的な対策を練ることが肝要だ。

 川崎の殺傷事件を契機に議論すべきこと

 5月29日付の東京新聞の社説が学校の安全対策についてこんなことを書いている。

 「ただ学校や通学路などを要塞のようにして地域や社会との接点をなくしてしまうことは、長期的な視点で子どもたちの心を育み、安定させることにはつながらないだろう。そこが悩ましい」

 「池田小児童殺傷事件の遺族の一人は講演で、学校の安全対策とともに、犯罪者を生まない社会づくりの必要性をこう訴えている。『命の大切さが次の世代に伝えられるよう(子どもたちを)導いてほしい』。米国では昨年、高校での銃乱射事件などをきっかけに、高校生たちが銃の規制強化を求め、デモを行うなどの運動を始めた」

 「子どもたちが命の大切さや社会正義を信じることができる社会を維持する。そのためにできることを議論し、実行する。それが大人に課せられた使命だ。今回のように、事件という形で困難が訪れたとしても」

 川崎の殺傷事件を契機に「心の教育」「犯罪を生まない社会」「命の大切さ」「社会正義」をあらためて考え、議論すべきだと思う。(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)(PRESIDENT Online)

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