社長を目指す方程式

部下や顧客の行動を“誘導” 業績を上げるのは「ナッジ」を使いこなす上司 (2/3ページ)

井上和幸
井上和幸

 例えば、私たちはコンビニやスーパーの棚や冷蔵庫で、どこを最もよく見ていて商品を手にする確率が高いかということは心理学的、行動学的に明らかになっています。立っていて目の高さにあるもの、また同じ高さであれば左から右に視線を移しますので、その順番に商品が目に飛び込んできて購買をくすぐられます。

 ここで健康志向のお店が、お客さまの健康を考え、目の高さに健康志向の商品や生鮮食品を置くような行為がナッジに当たります。

 一方で、お店が自分の私利私欲のために行動経済学的知見で行動を促すことは「スラッジ」(ヘドロや汚物を意味する英語)と呼ばれます。同じお店がお客さまの常習性を狙って劇薬的習慣性の強い化学調味料を多用した商品を同じ場所に展開し購買促進するとすれば、それはスラッジでしょう。ネット販売などで購入時にデフォルトで継続購入フラグが立っていてオプトアウト(本人からの申し出やアクションがあって初めて解除される形式)がしにくくなっているなどもスラッジですね。

 そう理解した上では、これは果たしてナッジなのかスラッジなのか、なかなか難しいマーケティング施策が私たちの生活環境には溢れかえっていることに気づきます。うな重などの定食価格の松竹梅(上1500円と並1000円の2つのメニューのときは多くが並を選択しますが、これに特上2000円が加わった途端、私たちの多くは上を選択します)、購入時に「効果を感じられなければ全額返金保証」のインセンティブ提供、「今月に限り、半額!」などの期間限定アナウンスなどは、私たちに純粋なメリットを得る機会を促してくれているケースももちろん多くあれば、提供者のマーケティングの罠におめおめとやられてしまうケースも少なくないように思います。

 私たちがナッジ/スラッジ、行動経済学を知っておく最大の価値は、こうした私たち自身の意思決定のクセがあるのだということと、その意思決定のクセを狙った情報を見たときに「非合理な意思決定」を回避することにこそあるのです。

 職場で活かすナッジ

 さて、この連載としては、このナッジを、社長を目指す上司の皆さんが、どう職場で使うのかということです。

 まずひとつ、興味深い話として、年功的給与制度は行動経済学的には妥当性があるというお話から。

 私たちは、現在の給与水準を参照点として、それより上がれば「利得」、下がれば「損失」と感じます。ある3年間、あなたの年俸が評価によって700万から800万になり、次年度は業績低迷で600万になったとしましょう。一方、別の3年間、600万から700万、800万へと昇給が続いたとします。絶対的に見れば、この3年間の平均年俸はいずれも700万、総年収は2100万です。収入的には同じなのですが、あなたは、後半の3年間は非常にハッピーな気持ちで過ごしますが、前半のうちの2年目3年目に、評価は致し方ないと理解しながらやるせない気持ちと、大きく減俸されたという印象を持って過ごすことになるでしょう。

 そもそも給与が下方硬直性を持つのはこうしたバイアスから説明できますし、行動経済学的に言えば、給与システムは年功的側面~経年で上がっていく体系を基本として、「頑張って、毎年少しづつ給与が上がっていく」ナッジを使った方が、社員のやる気は下支え継続するのです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ナッジ理論」

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