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輝き失せぬ知的ヒーローの半生記 欧州文化の「全体的」解釈を今読むと… (1/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 年末年始の休暇中、加藤周一『羊の歌』と『続羊の歌』を読んだ。知識人というスタイタスにまだ輝きがあった時代、その象徴的リーダーの1人であった加藤周一自身の半生を描いたものだ。初版が1968年、加藤が49歳のときの作品である。

 ぼくは、この本を高校生として初めて読んだ。その後、数年に一度再読しており、多分、今回で10回目あたりに到達したのではないかと思う。

 加藤は医学部の学生でありながら、文学部の授業にも出席し、特に仏文科の学生たちとの交流が軸になり、その後の文学に関する執筆活動に繋がっていく。但し、血液学の専門家としての仕事を30代まで続け、30歳周辺でパリに留学したのも名目的には血液学の研究である。もちろん、フランスを中心とした欧州の文化を深く知ることが本当の目的だ。

 30代後半、分野を定めない評論家を本業とし、医者は廃業する。仏文学から日本文学に至るまで、あるいは音楽や美術から政治に至るまで、縦横無尽な知的活動に生涯をささげ、2008年89歳でこの世を去った。

 第二次世界大戦時、俯瞰的にみて日本は米国に負けると踏んでいながら、傍観者以上のことができず、友人たちが戦場で命を落としていったことを悔いる。戦後まもなく、米国軍医団と東大医学部の共同で行った「原子爆弾影響合同調査団」の一員として広島に出向いたのも、それが理由である。

 高校生のぼくは、加藤周一の本を好み、大学は仏文学科を選んだ。フランス文学に嵌ったのではなく、文学という枠を越えて文化から政治・社会まで自分のフィールドとできるのは、1970年代後半、つまりはぼくの大学受験当時、仏文科くらいしかなかった。

 加藤の「知的フィールドの広さ」に憧れたのだった(他に、仏文学者の桑原武夫の著作にも同じように心酔した)。

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