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京大から猟師へ、野獣の命を食に わな猟師の生き方 (1/3ページ)

 【一聞百見】何を幸せと思うかはひとそれぞれだ。猟師、千松信也さんの場合それは、自ら仕留めた獲物を家族と食べるときであったり、積みあげたまきであったりする。どんな生活なのか。京都市北部の自宅を訪ねると、落ち葉を燃やしてたき火のそばで待ってくれていた。(聞き手 坂本英彰)

 便利な道具のない生活楽しい

 庭先がすぐ裏山へと続く。斜面をのぼると、イノシシが鼻先で土を掘り返した跡があちこちにあった。「イノシシもシカも、時にはクマもうろうろしていますよ。植林された奥山より、里山のほうがドングリとか食べ物が多いんです」。狩猟期は11月15日から3カ月間。イノシシとシカ合わせて10頭ほど取るが、売らない。妻と小学生2人の家族が食べる分を賄うほか、友人に分けるだけだ。京大在学中にアルバイトで入った小さな運送会社に、いまは準社員として週3~4日勤める。「世間では何で収入を得ているかでその人を表すのが普通ですが、僕は猟師でお金を稼いではいないんです。何者かと聞かれたら、猟師だというのが一番しっくりくるのですけどね」

 一般的な猟師のイメージである銃は使わない。直径12センチのワイヤロープの輪を仕掛けるわな猟師だ。狙った獲物が足を置く場所を、ピンポイントで見定める。「獲物の通り道に仕掛けるのですが、イノシシは嗅覚が鋭く用心深い。わなの手前でUターンしたり、またいだりします。向こうも僕のことを、あの人間だと思っているでしょう。動物の一員として、生態系に入れてもらっているという感覚が好きなんです」

 獲物がかかるとセンサーが働きメールで映像を送る。今はそんなハイテク装置もあるが使わない。常にメールを気にし、装置を買うため余計に働くということになりかねないからだ。「便利すぎる道具は生活を壊す気がするし、何だか楽しくなさそうでしょう」。山からは山菜やキノコも採れる。飼っているミツバチからはハチミツ、ニワトリからは卵がとれる。まき風呂、まきストーブの燃料は倒木などで調達する。川や海でも魚を取り、カモやスズメを狙う網猟を行うなど、一家の食卓にのぼる多くを自然から調達する。

 「まき割りは楽しいですよ。狙い通りの筋でパーンと割れると、オッシャーって感じ。まきが積みあがっていくと、幸せが積みあがっていくように思います」。自分で割ったまきをストーブにくべながら、顔をほころばせて語った。

 京大の自由な学風に刺激受け

 千松さんの案内で同市北部にある自宅の裏山に入った。「木についた泥はイノシシが体をこすった跡で、縄張りを示しています。ヌタ場という泥浴びをするこの水たまりは、濁り具合から3日ほど前に使っていますね。黒いのはテンの糞(ふん)です」。生き物の気配を感じなかった冬枯れの森が、違って見えた。住宅地に近い都会の里山で、これほども動物たちが活動しているとは。

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