ビジネスパーソン大航海時代

リーダーの伴走者は「総力戦で社会課題に挑みたい」~航海(20) (2/3ページ)

小原聖誉
小原聖誉

 そうだったのですね。なにが転機になったのですか?

 「とにかくお客様に喜ばれる商品を作ろう、というポイントだけは何よりも強くイメージしていました。それまでの失敗からも学び、当たり前のことかもしれませんが、それだけは絶対に成し遂げようと全員で決めていました。インターネット広告市場はまだまだ伸びしろがある市場でしたが、当時はまだインプレッション保証やクリック保証などのメニューが普通に販売される時代でした。一方で成果に注目した、成果報酬型の広告サービスはまだ多くなかった。その軸で考えた際に、成果報酬型メディアの構想を具体化し、スピーディーに立ち上げたところ手応えがある結果がついてきたのです」

 転職EXですね。

 「はい。まずその事業でしっかりとヒットを出し、そのビジネスモデルを他の領域にもうまく適用させて広げながら収益は右肩上がりになって行きました」

 順調ですね!

 「もちろんそんな簡単ではなかったのですが(笑)。そして会社名を“じげん”とし、MBO(マネジメントバイアウト。経営陣による買収)を行い、その後も成長をして参りました」

 取締役になられるのは子会社入社して何年目くらいだったのですか?

 「入社して6年目だったと思います」

 すごいスピードですね!

 「自分はもともと肩書きを欲しいと思ったことはなかったのですが、自分が事業責任者として経営に関与している会社という意識が上がるにつれて、マネージャーであることに歯痒さを感じ始めました。創業期のほぼゼロからこの会社の土台を自分で作ってきたからこそ、これからも誰よりもその成長を牽引していきたいと考えるようなりました。誰よりもその想いが強い自負もありましたので、自分から社長に対してどうしたら役員になれるのか?何が足りないのか?と問うこともありました。そして同時にたとえ肩書きがなくとも、自分が誰よりも会社を率いていきたいという自負と想いを明確に持ち続けて仕事に取り組もうと決意して推し進めた結果、取締役という役割を任せて頂くことができました」

 そしていよいよ上場ですね。上場は一つの区切りであるとは思うのですがそこに向けてどのように取り組まれていたのでしょうか。

 「入社して7年目にマザーズに上場しましたが、上場は当然のプロセスであると認識しておりました。当然IPOに向けて必要な準備プロセスはありますが、そこに向けて何かをしていたというよりかは当然の通過点として認識しておりました。むしろそこがスタート地点であるくらいのイメージで自然と取り組めていたと思います」

 その時のお気持ちは?

 「証券取引所の電光掲示板で流れる社名を見たり鐘を鳴らしたらもっと嬉しいものかと思っていたのですが、不思議なくらい嬉しいという感情はなかったんですよ。むしろここからがスタートだぞ、と身が引き締まる想いでした。“上場企業として、公器として、益々結果を出さなくてはならない”というスイッチが入った瞬間でもありました」

 want toからhave toとなることでの挫折

  ここまではジェットコースターのようなビジネス人生でしたがその後どうなりましたか?

 「上場してからは更にジェットコースターのような怒涛の展開でした。とにかく成長させなければならないという思いで様々な施策に取り組みました。M&Aを戦略的に展開を始めたのもこの頃からです」

 もともと営業職だったわけですよね。そこからM&Aを手掛けるなんてすごい。

 「とにかくマーケットの期待に応えなければならないわけですからがむしゃらでした。シナジーはあるか、必ず伸ばせるかを徹底的に事前に検証して、買収したら経営陣を送り出して自らが経営の舵きりをして更なる成長を図るチャレンジをしていきます。私自身もM&Aの実務経験はこれが初めてでした。その戦略で行くぞと決めてからは経験者に話を聞いたり情報を諸々と調べたりと手探りながらもベストな道筋を考えとにかく進んでいきました」

 その後役員を退任されたのですね。

 「はい。よくある話ではありますが、上場はまさにプロセスでありスタートです。そこからの展開やチャレンジの方がハードでした。基本的には成果を生むことを常に念頭に置いていたのですが、逆に自分自身が何をしたいのか、というwant toは蔑ろにしておりました。結果としてhave toに縛られてしまい、自分の実力不足もあり、期待に応えられるパフォーマンスが徐々に出せなくなり、3年強で取締役を退任することになります」

 それは激しい人生ですね。

 「自分がそれまでの全身全霊を300%注いできた会社の役員を降りるという展開は正直めちゃくちゃ凹みましたし、お恥ずかしながら当時は再起不能かな、なんて思うこともありました。でも結果的にそれが自分自身を見つめ直すキッカケにもなりよかったと思っています。同時に当時ベトナムにあった子会社の代表となって現地の立て直しを行うのですが、結果としてそこでの仕事や生活が冷静に自分を見直す機会に繋がりました」

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