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何事もほどほどが良い? スウェーデンに根ざす文化「ローゴン」とは (1/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 東京・赤坂見附のホテルニューオータニ内で歯科医院を開業している田北行宏さんという友人がいる。10数年前、彼は都内で友人の結婚披露宴に出席した。同じテーブルに一人だけ日本語が分からない外国人がおり、米国の大学で勉強した田北さんは、彼がどんな人かも知らず、披露宴のスピーチなどを逐次英語で訳してあげた。

 宴がはねた後、その外国人は田北さんに通訳のお礼を述べ、「あなたの夢は何ですか?」と聞いてきた。そこで田北さんは「スウェーデンで外科手術の経験を積むことです」と答える。

 なんと「夢を叶えてあげるから、少々時間をください」との答えが返ってきた。目の前にいる人は歯科インプラントシステムで著名なスウェーデン企業の日本法人社長だったのだ。

 人工の歯を顎骨に埋め込むインプラント治療は1960年代のスウェーデンで最初に有効な治療法としてブレイクスルーを起こし、1980年代になると北米で一気に普及した。田北さんは米国でも学んだインプラント技術をもっと極めたいと20年以上、いつかスウェーデンの病院で自らの技術を高めたいとの希望を抱いていたのだ。だが、それまでスウェーデンに縁がなかった彼には、一歩を踏み出す契機がなかなかなかった。

 それがスウェーデンのインプラント治療分野で1-2位を争うと言われる歯科医師のいる病院で働けるよう、かのスウェーデン人が半年間ほどで手筈を整えてくれたのだ。田北さんはスウェーデンの病院の口腔外科に着任した。その時、看護婦長から真っ先に次の言葉で歓迎される。 

「ドクター田北、ローゴンという言葉を知っている? これは、ほどほどに、という言葉なのよ。ここの国は一隻の船なの。そこであなた一人が自己主張したら船が揺れて、皆が迷惑するのよ。何事もほどほどに。ローゴンという言葉を忘れずにここで過ごしてね」と。

 日常の生活のなかでそう頻繁に聞くわけでもないが、その後、田北さんが焦って何かしようとすると、周囲から「ローゴン」と言われたという。着任の初日、意気込み過ぎていたのだろう、と徐々に様子が分かってきた田北さんは思い返す。 

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