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「人への尊厳がクリエイティブに繋がる」 本当に“腹落ち”したクチネッリ氏の哲学 (2/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 また「田園風景の美しさとともに、都市郊外にある現代社会の深い問題に自分は関心を寄せている」とクチネッリ氏は語った。この問題意識も、当時は文脈が読み切れていなかったと気づいた。

 中小都市とその郊外、その周辺に広がる田園風景、これらの要素がイタリア語では「テリトーリオ(地域の意)」として環境・都市計画の次元では捉えられる。歴史、文化、アイデンティなども包括している1980年代以降にある潮流だ。

 ちょうど1989年にスタートしたスローフード運動により農家と都市の間にリンクが作られはじめたことも、テリトーリオの概念にさらに中身を加えた。そうして都市と田園は繋がるとも、1950~60年代の高度経済成長期に発達した郊外の工業団地や集合住宅群(ベッドタウン)は文化不在のまま長い間、人々のケアの対象になってこなかった。

 昨年、ソーシャルイノベーションのエキスパートであるエツィオ・マンズィーニ氏の『日々の政治』を翻訳しながら上述の内容が視野に入ってきて、クチネッリ氏が将来に残すべき田園風景の美へ拘り、郊外のことに心を痛めていることの背景にぼくは合点がいった。

 彼が少年時代、家族は貧しい農家として農村に生活していた。高校生の頃、父親が郊外にあるセメント工場の工員として働き始め、同時に住まいも郊外に移った。そこで職場で父親が人として扱われないことで精神的に参っていることを知り、クチネッリ青年は将来、人の尊厳を第一とする事業に携わろうと心を決めたのだった。

 即ち、彼の事業動機と郊外にまつわる問題が密接に関係していたことを、環境全体の構図と歴史のなかで再認識したのだ。

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