東京支社のほうで先に受注確定していたものがあり、それと同じサービスを大阪本社でも決裁いただくことになっていて、私が東京と同じ見積書をお持ちしたところ、「井上くんなぁ、商売分かってへんなぁー」と一喝。「これは、そのままこの値段でやってくれゆう見積もりやろ? これじゃあ、俺の顔が立たん。**%金額を乗せた見積もりを一度出しなさい。すれば、俺が役員に、見積もりはこれこれだけど、それをこの額に値引きさせました、と言える。俺も役員も値引き仕事ができた。キミは受注したい額で受注できる。な、こうすればええんや。役員も俺もキミも、全員顔が立って大満足や」。
私は純粋に、なるほどー!と感服しました(笑)。まさに関西の値引き文化は、この心理的テクニックを売る側も買う側も使い、楽しみ、満足度をあげているのでしょうね。
これをやるために正価を詐称したり盛ったりすることは道義に反することですし絶対にやってはいけません。一方で多くの上司の皆さんが、ご自身の裁量での値引き対応ラインなどをお持ちだと思います。その際に、最初から「出精値引き」で見積もりや請求書を出すのではなく、最初は正価で。そのうえでの交渉プロセスにおいて追加で可能な値引きラインをお伝えするほうが、クライアントやお客様の満足度、購入意欲は倍近く高まる可能性が高いのです。
さて、では上司のあなたが部下たちに提示できる「おまけ」「値引き」は何でしょう? 高い目標を追う必要があるときや、仕事の納期を握る際には、このテクニックは使えそうですね。「しかたないな、本来これくらい(までに)やって欲しいのだが、キミの日頃の頑張りに免じてこれくらい減額しても(日数を伸ばしても)いいよ。そのかわり、これで必ず達成頼むね!」。上司のあなたは、その「値引きしたライン」でも部や課の目標には到達するようコントロールすれば、しめしめです(笑)。しかしまさか、査定の考課点数や給与額、賞与額にこのテクニックを使う訳にはいきませんのでご注意を。
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上司としてはぜひ握りたい主導権。そのためのテクニックを繰り出すに当たり、せっかくなら相手に「得した」「良かった」と思ってもらえる交渉をしましょう。できる社長はみな、この手の交渉に優れていますね。「やられたなぁ、でも憎めないな」、あなたもそんな風に思った瞬間がこれまでに何度かあったのではないでしょうか。
負けてはいられません! あなたも社長に負けず、堂々と「限定」と「追加提示」を駆使して主導権を握りましょう。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら