郵政新体制、問われる変革力 矢継ぎ早の提携、金融2社に業績懸念

 
ファミリーマートとの提携について記者会見する日本郵政の長門正貢社長(右)=5日、東京都千代田区

 昨年11月の株式上場から5カ月。日本郵政グループが新経営陣で船出した。1兆4000億円の資金を調達し順調なスタートを切った上場だが、第一生命保険などとの矢継ぎ早の提携戦略からは本業の失速を補う業容拡大の焦りもみてとれる。荒海にこぎ出す新経営陣には、民間企業としての変革力が問われている。

 提携事業の具体化には時間

 日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の8日の終値は年初来高値より22~26%安値だった。日銀のマイナス金利政策により、グループ収益の屋台骨を支える金融2社の業績悪化懸念が強まり、株価は低水準に張り付く。

 学資保険や終身保険など主力商品を国債で運用するかんぽ生命は深刻だ。82兆円の運用資産のうち国債が55%を占めており、外債や株式などのリスク資産に10%をシフトする方針だが市場の評価にはほど遠い。

 3月29日の第一生命との包括業務提携発表はマイナス金利が後押しした面もある。提携は海外の生保事業や資産運用、国内の商品開発や運用技術開発が柱。しかし、ほぼ全ての提携事業が「検討する」ことになっており、具体化にはなお時間がかかりそうだ。

 グループ従業員22万人のうち20万人を抱える高コスト体質の日本郵便。豪物流最大手のトールの買収やファミリーマートとの提携による国際配送サービスなど、国際物流事業で収益拡大の道を探る。5日に発表されたファミマとの提携では、内外のファミマの店舗をネット通販の配達拠点に活用するほか、現在500店舗に設置しているゆうちょ銀のATM(現金自動預払機)を「全国に2000~4000台追加する」(日本郵政の長門正貢社長)。

 日本郵政の長門社長は会見で「これまでの協力を一段高い提携関係に格上げして両社の企業価値を高めたい」と期待を寄せた。だが、関係者によると、提携事業の協議はファミマが提案する幅広い提携事業に対して、郵政側が仕分けする形で進められた。

 昨年5月に買収したトールとの連携の道筋は、1年経過してもみえてこない。日本郵便の2015年4~12月期決算で、国内の郵便や物流事業は前年同期の97億円の赤字から29億円の黒字に転換したが、人件費が収益を圧迫する構造は変わらない。野村証券の広兼賢治アナリストは「高コストのユニバーサル(全国均一)サービスの利用料金は高いということを国民に理解してもらうしかない」と述べ、料金値上げが必要と指摘する。

 国際物流事業に期待

 一方、牽引(けんいん)役として期待されているのが国際物流事業だ。ファミマとの提携会見で、日本郵便の高橋亨社長は「提携関係にあるトールの力も借りたい」と海外配送の際に連携していく考えを示した。日本郵便は社外取締役と合わせて4人の取締役をトールに派遣するなどして国際物流事業を学ぶ。

 昨年12月末時点で約4700億円のトール買収ののれん代は、トールの資産再評価で縮小する可能性もあるが、償却完了までの20年間は日本郵便の経営に重くのしかかる。「国際物流の経験がない日本郵便はトールのやることに任せるしかない」(広兼氏)との見方もあり、買収の成果を手にできるかは未知数だ。

 西室泰三・前社長の病気療養に伴い、緊急避難的に登板した長門・日本郵政社長と池田憲人・ゆうちょ銀社長は民間出身だ。「上場しても郵政省時代と何も変わっていない。佐川急便やシャープを買収するとか思い切ったことをやれば良い」(自民党議員)との不満に、新経営陣はどう応えるのか。