IoT時代の到来促すプロジェクトが続々登場 ソフトバンクやリコーなど

 
世界から絶賛された手のひらサイズのDJシステム「GO-DJ」(手前)とスピーカー付きの新製品「GO-DJPlus」

 社会や暮らしを豊かにする機器やサービスを形にしたい。そして世界に向けて提供したい。技術者や研究者をはじめとした個人やチームの、そんな思いを支えるさまざまな仕組みが登場して、IoT(モノのインターネット)時代の本格的な到来を後押ししている。

 巨人立つ。そんな印象を抱かせるプロジェクトが3月30日、東京・秋葉原で発表された。主催はソフトバンク(東京都港区)。構想中の新製品や新サービスの具体化を支援するプラットフォーム「+Style」を立ち上げるというものだ。会場では「+Style」に参加する企業が、アイデアや製品を持ち寄って来場者に見せていた。

 ネットワークにつながる家電を企画・販売しているCerevo(東京都千代田区)が提案していたのは、「RIDE-1」という自転車にとりつける機器。9軸センサーを内蔵していて、走る自転車の速度や傾き、走っている場所、周辺の湿度や温度などを測定し、無線通信でリアルタイムに発信する。別の機器からペダルの回転数や使っているギアのデータを受け取り、送信することも可能という。

 レース中の自転車に使えば、集まったデータを見ながら効率の良い走り方をレーサーに指示できる。転倒した場合も、衝撃を察知して迅速な対応を行える。記録を精査して他のレーサーの記録と比較し、自分の走りを向上させるような使い方もできそう。心拍数や体温といったデータと組みあわせれば、レーサーの走りを体長ともども把握・管理できるようになる。

 こうしたデータをビジュアル化すれば、レース風景を見せていただけの自転車レース中継に、選手の一挙手一投足を見て楽しむといった新しい要素を付け加えられる。Cerevoではこの製品を、「+Style」が提供している、一般から資金を募るクラウドファンディングの機能を使って送り出そうとしている。

 Cerevoでは過去にも、様々ならクラウドファンディングのサービスを使い、画期的な製品を送り出してきた。今回「+Style」を利用したのは、ここが提供している機能がクラウドファンディングだけではないからだ。アイデアや技術を見せて世界中から意見を募り、より良い製品作りにつなげようとするプランニング、できあがった製品を販売するオンラインショッピングの機能を「+Style」は持っている。

 Cerevoの岩佐琢磨代表取締役は、ソフトバンクのこうした取り組みについて「驚いたし期待している」と評価。「流通事業のトップを走っている会社がクラウドファンディングに参入するのは初。モノを作って出すだけでなく、流通させて届けてお金が入ってくる」と、新しいプラットフォームの登場に期待を示した。

 環境対応自動車を開発・販売しているGLM(京都市左京区)は、テレビアニメーション「ガッチャマン クラウズ」に登場したスポーツカーを再現した自動車「GALAX ZZ」を、オンラインショッピングの機能を使い提供している。発表会には、GLMのアドバイザーを務めるソニー元会長の出井伸之氏も登壇して、ソフトバンクが始めた試みを評価した。

 会場にはほかにも、スマートフォンから高さを指定すると、自動的に天板の高さが変わる机、コーヒー豆を選ぶと最適な水の量などが提示され、そのとおりにいれれば美味しいコーヒーができあがる機器などが並んで、支援や提案を受け付けていた。アイデアを育てるところから、製品化の支援、そして販売までを受け持つ画期的なプラットフォームの登場が、スタートアップを目指す企業を多く生みだし、日本のモノ作りを変えていく。そんな可能性を形にする場として、「+Style」が持つ意義は大きい。

 ASCIIブランドでIT関連情報を提供しているKADOKAWA(東京都千代田区)のアスキー・メディアワークスが始めたのは、「IoT&H/W BIZ DAY by ASCII STARTUP」というプロジェクト。Cerevoのような新興企業が製品やサービスを持ち寄って見てもらい、スタートアップに役立つセミナーも開いてこれからの企業やサービスを支援する。

 3月28日に東京都千代田区のKADOKAWA富士見ビルで行われたイベントにも20社近くが参加。全世界からスタートアップ企業が集まるアメリカのイベント「サウス・バイ・サウスウエスト」で認められた、手のひらに収まるDJシステム「GO-DJ」を作ったJDSound(仙台市青葉区)は、新たに売りだそうとしているスピーカー付きのDJシステム「GO-DJ Plus」を提案して出資を募っていた。

 ソニーから別れて、ノートPCやスマートフォンを製造・販売しているVAIO(長野県安曇野市)も参加。工場設備を使ってスタートアップ製品の製造を請け負うサービスを提案していた。素晴らしい試作品に資金が集まっても、製品を作るには設備が必要。VAIOならこうした部分を請け負って、スタートアップ企業を支援できる。イベントには、そんなクライアントを見つける意味もあって参加した。このイベントを含め、アイデア、製造設備、ファイナンスといった分野が“お見合い”できる場の需要は、今後ますます高まりそうだ。

 企業が個人のアイデアを支援する動きも。3月31日に東京大学情報学環・ダイワユビキタス学術研究館で発表された「RICOH THETA × IoTデベロッパーズコンテンスト」。リコー(東京都中央区)が販売している、全天球撮影が可能なカメラ「RICOH THETA」を、ネットワークを介して動作させるためのプログラムをオープンにして、企業や研究者でも考えつかないTHETAの使い方を世界中から募っている。今年が2回目で、昨年はドイツから寄せられた、全天球イメージに3Dオブジェクトを追加できる技術が大賞を獲得した。

 審査員を務める東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏は会見で、IoTの時代は、企業が持っている技術や情報をオープンにして、広くアイデアを募って発展させていく意義を訴えた。リコーで新規事業・プラットフォーム開発センター所長を務める大谷渉氏も、「メーカーがお仕着せの製品やサービスを提供するだけでなく、お客さまといっしょにビジネスを育てていく形態へ」と、企業が変わっていく必要性を指摘した。

 坂村教授は「総額500万円という賞金は、強いインセンティブになる」とも。IoTにつながる構想を早くから打ち出し、2015年に国際電気通信連合(ITU)が創設150周年を記念して行った表彰で、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツらと並んで選ばれた坂村教授。審査員として参加するこのコンテストでも、オープン化によって世界中にいる才能に参加を促し、誰も考えつかないようなアイデアを得ることで、IoTの普及が進み、社会や暮らしが一段の発展を遂げることを目指している。