驚異の価格設定「280円均一」で世界を変える 「鳥貴族」大倉忠司社長
各種フードからドリンクまで全て「280円均一」という驚異の価格設定が人気の焼き鳥チェーン「鳥貴族」。焼き鳥店一本の単一業態ながら、関西や首都圏、中京圏で約500店を展開し、2020(平成32)年には千店舗を目指している。創業者の大倉忠司社長(56)は、庶民にうれしい安さと、おいしく安全・安心な料理の提供の両立を掲げ、「たかが焼き鳥屋で世の中を変えたい」という強い思いを持って邁進(まいしん)している。(中山玲子)
「お客さんの驚き、感動」をメニューに
弊社の強みは、アルコールのメニューも280円均一にしている点にあると思っています。居酒屋は従来、フードよりアルコールでもうける形が一般的ですが、うちではビール系飲料「金麦」の大ジョッキも、ウイスキー「響」のロックやハイボールも全て均一料金で提供しています。
商品開発では、通常は原価率の上限を決めて考案していますが、中には例外もあって「これも280円なのか」とお客さんがびっくりする、感動できるようなものを忍ばせています。
均一価格ではメリハリが大事で、お客さんが「これはすごいな」と感じるものと、店側の利益になるものをミックスさせるのがポイント。全て同じ値段だからこそ、お客さんが「どれを選んだら得なのか」と考える楽しみもありますよね。
安かろう悪かろうではだめです。より良いものをより安く提供する。価格以上の価値を提供できれば、いつの時代も低価格は強い。「280円均一」は私たちの強みなんです。
平均客単価は1900円台。その分、お客さんにとって身近な店、生活必需店になり、来店頻度やリピーター率を高くしたい。私たちは「家飲み」がライバルだと思っています。
高校時代のバイト、「焼き鳥担当」で開眼
《中小企業の街、大阪府東大阪市生まれ。家業はブリキ玩具の型を製造する町工場だった。6畳1間、あとは作業場という家で、両親、2歳上の兄とともに、機械の音や油のにおいに囲まれて育った》
社交的な兄とは対照的に恥ずかしがり屋な子供で、親が配達に出るとき、リヤカーに乗って一緒について行くのが楽しみでした。
プラモデル作りの一方、巨人軍の長嶋茂雄選手が大好きで、野球にも熱中した。小学生のときにみんなでチームを作り、学校対抗戦で選抜されたこともあります。ポジションはサード、打順はクリーンアップを任されていました。
東大阪には工場が立ち並んでいましたが、田畑もあちこちにあって、カエルやザリガニ取りにも熱中した。近鉄布施の駅前に(スーパーの)「ニチイ」ができたときも画期的だった。小学4、5年生のときでしたが、「わが町にも百貨店ができた」とうれしくなり、たちまち遊具コーナーやゲームコーナーが遊び場になりました。
兄は手先も器用で、父はよく「料理の世界に行け」と言っていた。私には「お前は不器用やから、おもちゃをやれ」というわけです。その兄は玩具関係の仕事に就き、私は外食チェーン…。父の言っていたのと逆になったわけです。
《高校生のとき、ビアガーデンで初めてアルバイトをしたことが、人生を左右する転機になった》
友人に誘われたのがきっかけで、最初はホール係をしていたんですが、早めに出勤して食べ物の仕込みの手伝いもしていると「君、しっかりしてるな」と社員の方に働きぶりを褒められて。その後、焼き鳥とおでんの部門を任されていた方が辞められて、仕事を引き継ぐことになりました。
ビアガーデンのアルバイトには2年間通い、焼き鳥を担当したのはたまたまだったんですが、漠然と「将来、飲食店をやるのもおもしろそうだな。楽しい人生が送れそうだな」と考えるようになったんです。
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おおくら・ただし 昭和35年2月、大阪府生まれ。高校卒業後、辻調理師学校(現辻調理師専門学校)へ進んだ。イタリアンレストランでの勤務などを経て、昭和60年に同府東大阪市で焼き鳥店「鳥貴族」を開業。翌61年に社名を「イターナルサービス」と名付けて法人化し、平成21年に「鳥貴族」と改称した。25年から大阪外食産業協会副会長。趣味は「お酒を飲むこと」という。
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