事業の多角化は、あたれば急成長、外れれば「放漫経営」のそしりを受けかねない。しかし、ブラザー工業は時代に応じて事業内容を巧みに変化させながら発展を続けてきた。今期は通信カラオケを中心とするネットワーク関連事業が黒字転換の見通し。「選択と集中」とは真逆の発想で収益を確保してきたブラザーの多角化の歴史には、業界で生き残るためのひとつのヒントが隠されている。
掃除機、バイク、オルガン…
ブラザーは何を作っている会社なのか?
こうたずねると、高齢者は「ミシン」、比較的若い人は「プリンターやファクス」と答えることが多いという。昭和9(1934)年の設立時はミシン製造の会社。現在は売上高の約7割をプリンターなどの情報通信機器事業が占めている。多角化の手始めは、戦後の家電事業だった。
1950~60年代にかけて掃除機、洗濯機などを相次ぎ発売。家電以外ではオートバイを開発したこともあったという。これらの商品の共通項は「ミシンと同様にモーターを使う」ことで、電動オルガンもつくった楽器事業にも進出した。