こうした試行錯誤は、画一的な導入を目指す大企業においてはよしとされないものだ。従来のソフトウエアを利用することは、企業が単独のプラットホームに事業を預けることを意味する。会計ソフトの場合であれば、大企業が事業を預ければ法人向けの巨額の利用料がそこに生まれるわけだ。
もう一つ例を挙げれば、従来は米シスコシステムズによって提供されてきた法人向けのビデオ会議システムが、多くの企業でスカイプやブルージーンズ・ネットワークといったサービスに切り替えられているとされる。ブルージーンズ・ネットワークはシスコの製品と競合するだけでなく、シスコとの相互運用が可能な作りになっている。
SaaSは、中規模の企業に選択肢を与える。これらの企業にとって最高の投資は、まず今利用している従来製品と相互運用が可能なSaaSプラットホームを採用することだろう。そして、徐々にその考え方と利便性を社内に吸収していけばよい。
日本のスタートアップは、大手のシステムと連携可能なSaaSをどんどん生み出すべきだ。そして、自分たちの解決できる問題をオンライン広告で直接中規模の企業に対して訴えかけていく必要がある。近いうちに多くの企業が、従来のライセンス料を支払うのがいかにお金の無駄かということに気がつくのだから。
文:イジョビ・ヌウェア
訳:堀まどか
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【プロフィル】Ejovi Nuwere
イジョビ・ヌウェア ニューヨーク生まれ。全米最大の無線LAN共有サービスFON創業者のひとり。ビジネスウイーク誌により「25人のトップ起業家」に選出される。2008年に日本でオンラインマーケティングに特化したランドラッシュグループ株式会社を設立し、現最高経営責任者(CEO)。