「情けないですよ。クリスマスが近いのに、娘2人にプレゼントを買ってやる余裕もない。これ以上ボーナスゼロが続けば、もう限界ですね…」
九州電力の新小倉火力発電所(北九州市、計180万キロワット)の男性技師(42)は表情を曇らせた。
妻、県内の私立大学2年生の長女と、公立高校1年の次女の4人家族。大学の学費は半期で30万円、住宅ローンのボーナス払いの25万円を足すと計55万円となる。社員平均計約160万円の夏冬のボーナスを充てればなんとかなるはずだった。
ところが、東京電力福島第1原発事故のあおりにより、玄海、川内両原発の計6基がすべて停止したことで九電の経営状況は急激に悪化した。昨年冬のボーナスは7%減にとどまったが、4月からは給与が5%カットされ、今夏のボーナスはゼロ。技師は「秋以降に原発が動けば」と思い、何とか糊口を凌いだが、11月12日に労使が妥結したのは「冬期賞与見送り」だった。
これにはさすがに愕然とした。「緊急用」に貯めていた預金百数十万円は今冬にも底を尽きる。もし来夏もボーナスゼロならば借金するしかない。
この技師だけではない。九電の社員約1万3000人の多くが似たり寄ったりの境遇に追い込まれている。今冬からパートを始めた若手社員の妻も少なくない。車を売ったり、維持費が少なくて済む軽乗用車に乗り替えた社員もいる。九電は、給与1カ月分の退職金前払いに応じる支援策を打ち出したが、社員が納得するはずもない。
夏冬のボーナスゼロは社員の家族や親族をも動揺させた。「本当に九電に勤めていて大丈夫なの?」「もう原発は再稼働できないんじゃないの?」-。社員にとって妻や子供からこう言われるのが一番辛い。将来を悲観し、退職する若手社員も目立ってきた。