ボーナスゼロにもかかわらず、社員は過酷な勤務を続ける九州電力の本社=福岡市中央区(安部光翁撮影)【拡大】
田中は労使交渉の場に一冊の本を持ち込んだ。作家、百田尚樹のベストセラー小説「海賊と呼ばれた男」。出光興産創業者、出光佐三(1885~1981)の半生を小説化した作品だが、終戦直後、倒産の危機に瀕した同社の役員会で、佐三が、人員整理を進言する重役らを一喝する場面がある。
「ならん、ひとりの馘首(かくしゅ)もならん!」
田中が本を差し出すと労務担当者は深々とうなずいた。「私も読みました。よく分かっています…」
労務担当者からこの話を聞いた九電社長、瓜生道明は「私も労組と同じ気持ちです」と答えた。
「組合員の生活を守るのが労組の役割。九電そのものが倒れれば意味がない」「苦しみはみんなで分かち合うしかない」-。田中は、執行委員長の久保友徳らと協議を重ねた末、「賞与ゼロ」をのむことを決めた。こうして組合員の雇用だけはなんとか守ったが、労組幹部の表情は険しい。
「このまま原発が動かないならば、一体どうすればよいのか…」
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原発停止で、かつて超優良企業だった九電の財務状況は「火の車」となった。
原発6基分の電力は、火力発電8カ所17基をフル稼働させて補完しているが、円安もあり、重油や液化天然ガス(LNG)の調達費がかさみ、1日十数億円、月500億円の赤字を垂れ流す。平成23年度の連結決算は1663億円の最終赤字、24年度は3324億円となった。
それだけではない。原子力規制委員会が示した原発安全対策の新基準に対応するための費用は総額2千億円を超える。4月に企業向けの電気料金を平均11.94%、5月に家庭向け電気料金を平均6.23%の値上げに踏み切ったが、この程度の値上げで“出血”は止まらない。