田中さんは2003年に入社。生物化学研究所(07年に健康科学研究所に統合)に配属され、既に先輩たちが開発していたリン酸化オリゴ糖カルシウムの素材応用研究を担当した。「このオリゴ糖はむし歯の原因菌の栄養分とならず、歯の健康に欠かせないリン酸イオンやフッ化物イオンと共存できる。口腔ケア用途として非常に有望な素材だった」という。リン酸化オリゴ糖カルシウムは世界7カ国で物質特許を取得した。
そして、07年から兵庫県佐用町にある世界最大規模の大型放射光施設「SPring-8(スプリング8)」で実証実験を行う。学術、電子産業の利用が中心で食品業界は初めてだった。「素人同然でした。初めてリン酸化オリゴ糖カルシウムによる初期むし歯の再結晶化を捉えられたときは非常に感動した」ことを今でも鮮明に覚えている。
電子顕微鏡でも対応できなかったマイクロ(100万分の1)メートル単位という極めて微細な結晶の量と質の変化を解析し、本来のエナメル質と同様の高い硬度を持った緻密な結晶構造まで取り戻す『再結晶化』が起きていることが証明された瞬間だ。
しかし、本当に大変だったのはそれ以降だった。開発スケジュールをにらみながら製品と人を使った臨床試験などの作業が続く。「少数精鋭のメンバーで、時には48時間連続でふらふらになりながら測定したこともありました。今では良い思い出です」と笑いながら振り返る。実験は3年間に及んだ。