◆熟練の職人が何度も挑戦
神居住職は「西扉復元の準備にとりかかってから20年。まず木材を探すことから始めて、ようやく400年ものの尾州ヒノキにたどり着いた。板扉の組手は選定保存技術保持者である建具師の鈴木正さんにお願いした。材料・構造に加え、技法などについても最大限、当初の仕様を復元するため、東京文化財研究所の専門家の方々に、詳細な光学調査を実施していただいた。それでも復元は困難を極めました」と話す。
その一つが外装の朱漆塗り。天然の辰砂鉱石を探し新たな顔料を精製したが、少ない漆配分の再現をするのに現代の国産漆では、なかなか両者がうまくなじまないうえ、色再現もできない。辰砂の量が多いのが特長のため、割合を変えるわけにはいかない。特注したへらやはけを使い、熟練の職人が何度も挑戦して、ようやく鮮やかな朱色の再現にこぎつけた。内側の「日想観図」は、広々とした海と山の大胆な構図に、沈む太陽が金箔(きんぱく)で表現されている。西方浄土を想う荘厳な宗教画であり、貴重な大和絵でもある。神居住職は「絵についても入念な光学調査をしていただいたが、どうしても色合いの再現には限度がある。その範囲で可能な限り最高の復元を目指した」という。
再現方法は、肉筆による復元模写が完成していたため、これを鳳凰堂に納めることも検討されたが、最近の環境変化で劣化が心配された。そこで選ばれたのが、日本アグフア・ゲバルトのワイドフォーマットUVインクジェットプリンター。「デジタルデータの長所が生かせ、UVインクで板扉に直接、印刷するためオリジナルの質感や色彩の再現性が高い。加えて、湿気や水、光にも強く耐候性に優れている」点が評価された。「将来的にやり直しがきく技術」というのも大きなポイントだった。