江戸時代、水戸と江戸をつなぐ水戸街道が走り、江戸湾までの水路が形成された土浦。水陸交通の拠点として商業が栄え、千葉県の野田、銚子と並ぶしょうゆの名産地といわれた。この地で1688(元禄元)年に創業し、327年の歴史を持つしょうゆ醸造の老舗がある。
◆伝統守りつつ挑戦
「柴沼醤油醸造」。江戸、大正、明治の木樽約80荷(か)を有し、職人が仕込みに最適な状況を見極め、手間を惜しまずにしょうゆを造り上げる。その伝統的な製法を守り続ける一方で、充填(じゅうてん)から出荷までの工程は最新の技術を用いて安心安全に努めている。
「柴沼」を継ぐ直系の長男、柴沼秀篤さん(36)は18代目にあたる。「古き良き」を大切にしながらも、過去にとらわれず新しいことに挑戦している。
海外への販路拡大もその一つだ。きっかけは5年前、東京都のとある商社に「オーストラリアへの輸出に興味はないか」との話を持ちかけられたこと。だが、取引に関し未知数なところもあり、一度は断った。
それでも、その商社はアプローチを続けてきた。柴沼さんはついに、オーストラリアに行くことを決心する。商社員らとシドニーやメルボルンを見て回ると、1000軒を超える和食の店があり、そのマーケットの広がりに驚かされた。
一族経営で300年以上も続いていること、しょうゆの呼び名「むらさき」にまつわる話、柴沼家の商号「キッコーショウ」の由来…。現地で店を訪ね、柴沼醤油醸造にまつわる「ストーリー」を説明すると、相手は興味を持ち、真剣に聞いてくれた。
商社とタッグを組んで始めた輸出は取引先や注文数を増やし、年間輸出額は7000万円までになった。2012年には営業職を設け、イギリス留学の経験がある女性を採用した。
「自分たちのしょうゆを評価してくれる国があり、買いたいと言ってくれることに商売の喜びを感じている」