06年の最初の入札には近畿車両と日本車両製造がそれぞれ受注した経緯がある。当時は官民ともに将来の延伸計画による追加受注を視野に入れていたはずだった。事業主体の運輸通信省は、20年に開催予定の東京五輪に伴う車両需要の拡大が背景にあるのではと、分析した。日本の政府関係者も「国内受注で手いっぱいで海外まで手が回らず、技術者不足で身動きがとれない」のだと分析する。
実際に近畿車両は国内需要への対応に追われており、関係者は「円借款プロジェクトで日本企業が入札に参加しない事例が増えている」と打ち明ける。
政府内には「円借款供与国の信頼を失いかねい」と懸念する声も出ている。
政治リスクが少ないシンガポールでも受注に異変が起きている。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、13年以降にシンガポールの陸上交通庁(LTA)が発注した地下鉄駅やトンネル工事をめぐり、五洋建設や西松建設など日本の建設会社が単独や共同で受注した案件は27件中7件で、中国と並びトップだった。だが、15年以降はパッタリで、その背景にも東京五輪特需やリニア建設などめじろ押しの国内の大型工事があるという。
大手商社からは海外のプロジェクトに関して「建設大手から振り向いてもらえない」との嘆き節も聞かれる。