東芝が決算発表を再延期したのは、米原発子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)幹部が、巨額損失を小さく見積もるよう部下に圧力をかけたことで決算の信頼性が保てなくなったからだ。次々と失態が噴出する東芝の内部統制の不備は深刻で、原発縮小や半導体売却などのリストラ策が実現しても信頼を取り戻すのは至難の業だ。
「(東証)2部に降格しても、信用を確保しつつ上場廃止にならないように努力したい」。綱川智社長は14日の記者会見でこう述べたが、市場の不信感は極めて大きくなった。
東芝は原発事業で発生した損失額を確定させる過程で、WHのダニー・ロデリック会長らが実態より少なく計上するよう部下に過度な圧力をかけた疑惑が浮上。内部管理体制を調査する必要に迫られ、2月14日に予定した決算発表を1カ月延期せざるを得なくなった。
決算の遅れは当初、日米監査法人の調整難航が理由とみられていた。だが、蓋を開けてみれば根の深さが浮き彫りになった。調査した平成28年10~12月期より前の期でも同様の行為が行われた疑惑も生じた。
東芝は、損失の先送りなどにより、21~26年に計2248億円の利益を水増ししていた。多くの事業で「チャレンジ」と称した過剰な収益目標の達成を求める経営トップの圧力が背景にあったとされる。WHを含む東芝グループで不正会計の指示が横行していたとすれば、深刻な事態だ。
東芝は東京証券取引所に内部管理体制に問題がある「特設注意市場銘柄」に指定されている。15日に改善状況の報告書を提出して指定解除や上場維持の審査を受けるが、この判断にも大きく影響しそうだ。
東芝は不正会計問題の発覚で経営陣を刷新し、企業統治改革に取り組んだはずだった。だが、柱であるはずの原発事業で一部幹部の暴走を許した。佐藤良二監査委員長は会見で、「かなり改善したと思う中で、特殊な状況での特殊なケース」と楽観したが、企業統治の欠如は明らかだ。
綱川社長は会見で、水処理システムや昇降機など社会インフラ事業を中核に据えて経営再建に取り組む方針を打ち出した。しかし、今の東芝に何より必要なのは、不祥事が繰り返される企業体質の抜本的な改革だろう。(万福博之)