だが間もなく「松田さんが商売を始めた」と噂に。材料分だけでも指導料を、と話すと「金を取るのか」と、仲良しのはずのママ友らに詰られた。傷心で教室は閉鎖。ただ、優しき年配者もいた。「こんな楽しい手芸は初めて。もっと早くあなたに会いたかった」。支えられた。「負けたくない。クラフトバンド手芸を一生の仕事にしたい。俄仕込みでない籠編み技術を身に付ける!」。目指すは100通りの編み方の開発だった。
編み籠専門書にある写真を調べ、見たことがない編み方の籠を買ってはほどいて再現した3カ月間。「執念で」100通りを覚え、たった1人でクラフトバンド販売会社を設立。講師の資格を認定する協会もつくった。クラフトバンド手芸の“使徒”がまいた種は瞬く間に花開き、愛好者の心を掴んで放さない。
「色んな出会いがあってここまで来られた。半生の4分の1は病気で寝ていたんですよ。だから、朝、目を覚ませるとうれしいの。『きょうも生きてる!』って」。体験を生命力に代えて『Out of Africa』を著したカレン・ブリクセンにも似て…。カラフルなクラフトバンドの世界に棲みながら、その姿はモノクロームの光彩を放つようにも映る。
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【プロフィル】松田裕美
まつだ・ひろみ クラフトバンド手芸を広める過程で材料のネットショップを設立。同時につくったクラフトバンドエコロジー協会の代表理事に。ビジネス経験ゼロの主婦は「社の危機を救えるのは社長。助けてもらおうという心を持つと失敗する」と喝破する経営センスの持ち主だった。編み方紹介の著書多数。49歳。長崎県出身。
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