「限られた時間を都民のサービス向上に使おうという機運につながってきた。これまで会議の資料に、緻密なデータや調査結果を盛り込んだりしていたが、そうした内向きの作業は簡素化するようになった」。男性職員(45)は肯定的に評価する。
早帰りを意識付けるオフィスの「一斉消灯」は、長時間労働や違法な残業を防ぐという企業の姿勢を分かりやすく示す意味がある。ただ、働き方を本質的に変えなければ、すぐに形骸化する。
日本IBMでは既に20年以上前から実施している。だが、社員からは不満の声も漏れる。ある女性社員(38)は言う。「若手社員に『電気をつけ直す』という仕事を増やしているだけ。早く帰るようにという会社のメッセージとは誰も受け止めていない」
同様に日産自動車でも行われているが、女性社員(36)は「一斉消灯は根本的な解決にはならない。生産性の高い仕事をした結果、残業が減るというサイクルにしなければ意味がない」と辛辣(しんらつ)だ。
◆深夜に自宅で仕事
表面的な残業規制は、仕事を自宅に持ち帰り、休日をつぶして社業にあたる「サービス残業」や「ヤミ出勤」にもつながる。
「あの頃は生活がめちゃくちゃだった」
東京都内の会社員、川崎典子(37)=仮名=はこう振り返る。小売り大手で5年前、米国や中国など海外関連事業に携わった。同社の一斉消灯は午後6時半。役員自身がオフィスの消灯状況を見回っていた。しかし、海外との取引には時差がある。会社からノートパソコンを持たされ、深夜に自宅で作業せざるを得なかった。
「持ち帰った仕事はタダ働きで、残業規制は迷惑だった。心身を壊せば、勝手に残業したせいだとみなされる空気もあった」。育児との両立も限界となり、迷わず転職した。
「残業規制なんて、かけ声倒れだ」