【郵政の苦闘 民営化10年】(下)日本郵政の大型買収、もう許されぬ「失敗」 野村不動産買収を目指した理由は… (2/3ページ)

東京・霞が関の日本郵政ビル
東京・霞が関の日本郵政ビル【拡大】

  • トール・ホールディングスの買収を発表する日本郵政の西室泰三社長(当時)。国際物流事業強化が狙いだった=2015年2月

 西室氏は既に退任しているが、同じことを繰り返すわけにはいかない。内部から慎重な声が出るのは当然だった。

 それでも、日本郵政が一時、野村不動産の買収を目指した理由は何か。それは、郵政民営化法を読めば容易に想像がつく。日本郵政は日本郵便のほか、上場するゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を主な子会社としているが、法律では日本郵政が持つ金融2社の株式について「その全部を処分することを目指す」としているのだ。

 日本郵政グループの経常利益の9割超は金融2社がたたき出している。旧郵政省(現総務省)出身者を中心に、金融2社を手放すことへの危機感が強いという。日本郵便は子会社であり続けるが、国内郵便事業は成長性に乏しい。国際物流事業の強化のために買収したのがトールで、不動産事業強化のために傘下に収めようとしたのが、野村不動産だった。

 政府保有60%に低下

 のどかな田園風景が広がるある地方。地元の人がそこかしこで「売り出すらしいね」とささやき、ヤギを連れた女性が「私も気にした方がいいでしょうか」と関心を示す。

 今月中旬、こんなテレビCMで周知が図られたのは日本郵政株の2次売却だ。政府が保有する郵政株を売却するのは15年11月の東証1部上場以来、1年10カ月ぶり。赤字決算などで見送られる可能性も指摘されていたが、政府は今月下旬、約1兆4000億円分の売却に踏み切った。財務省幹部は「直近の決算(17年4~6月期)が黒字で、中期経営計画も堅調に進んでいる」と説明、新年度の業績の進捗(しんちょく)が判断材料になったと示唆する。

トール、野村不動産と苦杯を味わってきた大型買収